第8話 おんなじ場所で
暗い顔をしていたのは一瞬のことで、顔を上げた
「いろいろ前の学校のこととか思い出してたの。関心がないことになんで?って聞かれて、いつも何も言えなくなってたこと、とか。恋愛に関心がないの、なんで?とか……」
慧ちゃんは、私ではない誰かにたいして感情をこめて話しているようだった。
過去の嫌な思い出なんだろう。
それと同時に、私はなんとなく慧ちゃんの言いたいことが分かるような気がした。
「確かに、慧ちゃんには恋って概念はないよね……」
私は公園で急に告白したことを反省し始めていた。
「それは、
「え」
私は驚いて慧ちゃんの顔をまじまじと見つめた。慧ちゃんも私の顔をしっかりと見つめている。
「弓花は、本当は恋愛が何なのか分かっていない、と思う。でも、どうしようもないから、楽しいって思いたいから、経験だけたくさん積んでるんじゃない?」
「それは……」
どきりとした。今まで誰かにそう言われたかったんじゃないか、と気づいたから。
「弓花は自分の恋の話をよく私にしてくれたけど、いつも私に恋愛感情を尋ねるみたいに話してた」
私は慧ちゃんの言葉をしっかりと受け止めるように聞いた。そうだ、と頷いた。
私は外の世界に興味の薄い慧ちゃんとなら気負わず楽しく恋愛ができるかも、なんて腹の底では思っていた。
恋も知らないのに恋にたいして義務感と憧れを持つ自分が何者なのか分かるのかもしれない、と。
「なんで、」
「私も、弓花と一緒……」
慧ちゃんは控えめな優しい笑顔を見せた。
「弓花と話したときすぐに分かったの。おんなじ場所で息して生きてるって思ったから……」
慧ちゃんはそっと自分の手をテーブルの上に置いて、私を見つめた。
私はおずおずと自分の手で慧ちゃんの柔らかな手の甲を優しく包み込む。
「一番、仲の良い友達だと思ってる。それが私にとっての最上級なの。……それでも、私と付き合ってくれる?」
緊張したような慧ちゃんの声。
握った手も少し汗ばんでいた。
私はポッキリと割れていた自分の心がパチン、と一つにくっついたような音を聞いた。
わたしは慧ちゃんの横だと息がしやすいんだ。
「もちろん。……一緒にいて」
私は緊張していたけど、それでも自然と微笑みが浮かんできていた。
慧ちゃんと一緒にいられるのなら幸せだと思った。
(了)
優しい空気と花火。 夏来ちなこ @chi75_0805
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