勇者召喚されたけど状況に流されて生きていきます。召喚した側も行き当たりばったりでした。

壊れた木人形

第1話 勇者召喚されました

「「「姫様、成功です!」」」

 周りで耳障りな声がする。

『ここはどこだ?僕は予備校の自習室にいるはずなのに……』

「勇者さまーー!」

 誰かが僕に飛びついてきた。後ろに転ばないようになんろかバランスを取り、踏みとどまることができた。

「勇者さまーー!」

 胸元を見ると、まだ幼いと言ってもいいぐらいの少女が僕に抱きついていた。

『外国人??誰??』

 金髪のフリフリドレスを着た少女だが、外国人に知り合いはいないはずだ。周りを見回すと、ヨーロッパ系らしき顔立ちの人たちが10名程、僕を取り囲んでいた。

 その中で、十字軍の甲冑?を着た大柄な女性がこちらに近寄ってきた。

「姫様?その方は勇者様なのでしょうか?」

「勇者さまーー!」

 僕の腰に抱き着いて離れない少女は同じセリフを繰り返した。

 周りを取り囲んでいた人の中で、一際豪華な衣装を纏った人が声を上げる。

「勇者殿、しばし待たれよ、皆の者集まれ。」

 僕と腰に抱き着いている少女以外の人が集まって何か相談を始めた。

 ……

 かなり長い間、話合った後、一番豪華な衣装の人が再び口を開いた。少女は抱き着くのを止め、僕と手を繋ぎ、僕の横でニコニコして時々「勇者さーま、勇者さーま」と呟いている。

「お待たせした勇者殿、余はクレスターニ王国国王アレッサンドロ2世である。勇者殿は勇者殿で間違いはないのかな?」

「わかりません。僕の名は裕理、日本の学生です。」

 待たされている間に、「ステータスオープン」とか「鑑定」とか小声で唱えてみたが何も起きなかった。予備校生ではなく、学生と言ったのは見栄ではない、決して見栄ではない。

「我が国は魔国および帝国と争いの真っただ中である。我が国を救う、知恵を貸して頂けないだろうか?」

「僕は一介の学生です。そのような知恵はありません。」

「そうか。」

 国王様は落胆した様子を隠せないようだった。

 十字軍の甲冑?を着た大柄な女性ともう1人が進み出て、こちらに木剣を差し出しながら物騒なセリフを発した。

「勇者殿、いえユーリ殿、申し訳ないが、こちらのものと手合わせして貰えないだろうか?」

「参ります!!」

 もう1人が、有無を言わさず、木剣で打ちかかってきた。僕は反射的に目の間に差し出されていた木剣を手にし、手を繋いでいた少女を後ろに庇い、振り下ろされる木剣に向かって木剣を振り上げた。

 カーーンという音がし、1本の木剣が宙に飛んだ。

「参りました。」

 僕に剣道の心得はないはずなのに、自然と体が動いた。目の前には木剣を飛ばされ、肩を僕に打ち据えられた人が、蹲っていた。

「レベル30ですね。」

 十字軍の甲冑?を着た大柄な女性が、そう宣言する。

「勇者殿、しばし待たれよ、いや、隣の部屋に案内いたそう。」

 国王様が、十字軍の甲冑?を着た大柄な女性に合図すると、

「ユーリ殿、姫様、どうぞこちらへ。」

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 豪華な部屋に案内され豪華なソフォーに座らされた。隣には姫と呼ばれた少女がニコニコしながら座っている。十字軍の甲冑?を着た大柄な女性はお茶を淹れてくれたあと、空いている向かいのソファーには座らず、ソファーの後ろに立ったまま話始めた。

「ユーリ殿、此度は姫様の召喚の儀にお応え頂きありがとうございます。隣にいらっしゃる方が、デルフィーナ=クレスターニ第14王女殿下で在らせられます。不肖わたしは、親衛騎士隊隊長のエッダと申します。」

 さっき待たされていた時から、うすうす感じていたがラノベによくある勇者召喚に巻き込まれたらしい。不思議な程、この状況を受け入れている自分がいる。

「僕は元の世界に戻れるのでしょうか?」

「召喚の目的が達せられた時、あるいは10年の月日が経ったときに、送還の儀を行うことができると伝わっております。しかし、これまでの方はこの世界に残る選択をされたとされ、送還の儀が行われた例は記録にありません。」

「僕を召喚した目的は何なのでしょう?魔王討伐ですか?」

「この世界に魔王はいません。魔族の国は王制ではなく共和制だそうです。」

「共和制ですか?」

「魔族は色んな部族がいますからね。200年程前に栄えた人の共和国の制度に近いそうです。」

「では、僕に何をしろと?」

「それはわたしには分かりかねます。陛下よりお話があるかと思われます。」

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 王様を待ちながらたっぷり数時間エッダさんからこの世界のことを聞くことができた。中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジー世界で間違いないようだ。

 いい加減、話疲れた頃に、国王と国王とよく似た顔立ちの男が1人、ドレスを着たこれも何となく国王に似た女性が1人、メイドっぽい人が1人やってきた。みんな美男美女揃いである。

「勇者殿、お待たせした。」

 立ち上がろうとしたした僕を目で制しながら、国王と女性が目の前のソファに座る。メイドさんはいつの間にか僕の横で眠り込んでいた少女を抱きかかえて部屋をでていった。

「親衛隊長も同席するように。」

 部屋を出ようとしエッダさんは元の位置に戻った。もう1人の男性もエッダさんの隣に並ぶ。

「勇者殿、我が姫の召喚の儀にお応え頂き感謝致す。

 これから話すのは極秘事項であり、他言無用である。勇者殿を呼んだのは我が国を救って欲しいからである。我が国は魔国および帝国に攻められており危機に瀕しておる。勇者殿には、将軍となり我が国の将兵を率い魔国を打ち払ってもらいたい。」

「僕にそんな力はありませんよ。」

「失礼だが、今の勇者殿が弱いのは分かっておる。しかし召喚された勇者は民を救う特別な力があり、修業によってその本来の力を取り戻すと伝わっておる。こちらの一方的な願いであることも承知しておるが、まずは修行してみてくれぬであろうか。修行しても勇者としての力が目覚めぬ時には我らとしても、あきらめもつく。」

「僕に断る選択肢はないですよね。」

「理解が早くて助かる。出来る限りのサポートはするつもりである。修行には、我が娘を同行させる。」

「初めまして、勇者様、わたくし第7王女クラウディア=クレスターニと申しますわ。よろしくお願いいたしますわ。」

 隣の女性は王女様だったようだ。言われてみれば王様に似ていなくもない。クルクル巻き毛の金髪にエメラルド色の瞳、ボンキュボンの身体で20代後半のお姫様だ。

「修行はエウスターキオのダンジョンで行うものとし、出発は10日後とする。それまで、勇者殿には王都のダンジョンで肩慣らしをして欲しい。

 それで勇者殿には勇者であることを秘匿して欲しい。我が国が召喚の儀を成功させたことが知られれば、帝国は黙っておらん。必ずや勇者殿を亡き者にしようとするであろう。」

「帝国の暗殺者を防ぐことはできないということですか。」

「そうだ、そこで身分を偽る必要がある。今まで存在を知られておらず、護衛がついていても、姫と行動を共にしても将来将軍になっても不自然ではない者だ。」

 国王はそこで、後ろの男性を視線で示してから続けた。

「これは我が兄だ。我が兄の隠し子となってもらう。」

「勇者殿、いやユーリと呼ばせてもらうね。私はアルフォンソ=ボルゲーゼ、公爵だ。覚えておいてくれ。細かい話は王都に居る間に詰めるとしてこれから宜しくね。」

「……よろしくお願いします。」

「では急な話だが、今日から修行開始と致す。親衛隊長はクラウディアと勇者殿の警護に任ずる。勇者殿、何かあれば親衛隊長に伝えてくれ、できるだけ希望に沿うようにする。

 ……勇者殿、クレスターニ王国は勇者の血統を残すことを望む。それもできれば王家に、無理強いはしないが、気に留めておいてくれ。」

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