ウラ・ウラシマ

小山らみ

第1話 カメを助ける

 小さな台の上に置かれた大きな白いタカラガイ。

 タロウは出かける前にそれに向かって手を合わせる。亡き父母のやさしい笑顔が浮かぶ。

「今日もいい日でありますように」

 腰にびくを付け釣りざおを持つと、ウラシマタロウは海に向かった。


 晴天。輝く海。そよ風。潮の香。見慣れた場所だが、その広々とした眺めに一瞬、見とれる。

 それも束の間、子どもたちの騒ぐ声が耳に届いた。

「ヤーイ、ヤーイ」

 集団で弱いものをいじめるときのはやし声。ウミガメが悪ガキ共に囲まれ突つかれているのが見える。

「コラッ! ヤメロ!」

 タロウは大声で怒鳴り向かっていく。

 怒った大人におどろいて子どもは散り散りに走り去った。

 あとに残ったカメはおびえ傷ついているようだ。

 その姿を見てタロウは幼かった頃の自分を思い出した。

 「もうだいじょうぶだよ。いじめっ子はいなくなった。さあ、海へ帰りなさい」

 カメはタロウを見上げて言った。

 「ありがとう。あなたは命の恩人だ。どうかお名前をお聞かせください」

 「ウラシマタロウという者だ」

 「ウラシマタロウ。いい名だ。タロウさん、いっしょに竜宮城にまいりましょう。そこでこのお礼をさせてください」

 カメはタロウをじっと見つめた。

 タロウはカメの背に乗った。信じていい、なんとなくそう思ったのだ。それに、いじめが起きた浜からいっとき離れてみたかった。

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