記憶を失った俺と5人の彼女
2号
第1話 記憶消失
あれ…、ここはどこだ?公園?
目の前にいるキミは誰だ?女なのはわかるが、顔がよくわからない。モザイクみたいに全体にぼかしがかかってて、目を凝らしても顔も髪型も、服装すらもわからない。
「なに?話って」
話?なんの事だ?どうやら俺は今の意識とは関係なく何か喋ってるらしい。目の前の女の子は俺の話を真剣に聞いてくれてる。
「うん、いいよ。私も…好きだから。付き合おっか」
え?今俺がキミに話した事って、告白なのか?付き合おっかって…そういう事だよな?
答えてくれ…、おい!
ここで急に俺の視界は真っ暗になった———
ガバッ!!!
俺は勢いよく起き上がった。なんだ、夢か?
あれ?ここはどこだ?ベッド?病室の中か?どうやら気を失って寝ていたらしい。
やけに病室が広い。
痛っ!!!
俺は自分の頭部を触った。
…包帯?頭にグルグルとキツめに巻かれてる。よく見たら足も右足がギプスで固定されてるぞ?体を動かそうとするとそこら中に激痛が走る。腕には点滴の様なものが繋がっていて、鼻と口には呼吸器の様なものが繋がってる。
一体俺に何があったんだ?
その時、病室の扉が開いた。ナースの若い姉ちゃんが入ってきた。
「よかった!意識が戻ったのね!」
姉ちゃんは涙ぐみながら俺に近寄ってくる。優しい姉ちゃんだな。よく見たらめっちゃ可愛いし、この病室最高かよ。
「これ、取っていい?鬱陶しくてさ」
俺は呼吸器を指差して姉ちゃんに相談する。
「流石にまだつけてた方がいいと思うけど。あなた、1ヶ月気を失ってたんだからね」
「い、1ヶ月も!?」
「ちょっと待ってて。先生に連絡するから」
そう言って姉ちゃんはベッドの隣にある電話機みたいなので先生に連絡してくれた。
電話機が置かれてる机が少し低い位置にあるから、かがんで通話してるんだけど、ナース服の胸元が何故かVネックになってて少し緩いから、姉ちゃんの谷間がこれでもかというくらいに見えてしまう。これは院長の趣味なのか?
そんな俺もまた、この絶景に目を奪われてしまうのだが。まぁこれも思春期の男子の健全な反応だよ。
…あれ?そういえば俺って、何歳だ?
よく考えると、自分の事なんも覚えてない。身長は?体重は?そもそも俺の名前は?
…全部忘れてる。
急に怖くなってきた。
「呼吸器、外して大丈夫って」
「さんきゅ。俺、ちょっとトイレ…」
「大丈夫?1人で行ける?部屋出て右に行ったらすぐだけど」
「大丈夫…」
俺は姉ちゃんにそう告げて男子トイレに向かった。片方の手で慣れない松葉杖をつき、もう片方の手で点滴のスタンドを転がし、激痛に耐えながら歩みを進める。
トイレに入って早々、俺は洗面所の鏡で自分を確認した。
おかしい。自分の顔に見覚えがない。見た感じ、高校生といったところか。身長は170センチくらい、痩せ型で髪はツーブロック、
小便を済ませ、なにがなんだかわからないまま病室に戻る。
病室に戻ると、医者らしきおじさんがいた。
「やぁ。思ったより元気そうだね」
と一言。いや、元気なのは元気だけどもよ。
俺はベッドに腰掛け、先生と向き合った。
「先生。俺、記憶がないんだ。何も。自分が生きてきた記憶が何もない」
「やはりそうか。脳の外傷が酷くてね。ひょっとしたら、と思っていたんだが…。思ったより深刻そうだな」
「先生、俺の記憶は戻るのか?」
「…残念ながら、完全には厳しい。ある程度は回復する事もあるが、どれほどの回復を遂げられるかは断言できない」
「マジか…。俺の身に何があったんだ?」
「交通事故だよ。キミは車と衝突して意識を失った。外傷も相当なものだった。命を取り留めたのが不思議なくらいさ」
「交通事故…」
「とにかく、他の脳機能にも障害があるかもしれない。今日、もう1度検査してみよう」
「あぁ」
先生は俺の表情を見て、肩に手を置いた。
「辛いかもしれないけど、一緒に乗り越えていこう。きっとその先にいい人生が待ってる」
そう告げて姉ちゃんと共に病室を出て行った。せめて姉ちゃんだけでも残って欲しかったぜ。
2人が病室を抜けてすぐ、俺はベッドに寝転がり、天井を見上げた。
俺は交通事故にあっていたのか。先生は、ある程度は記憶が改善する可能性があるって口振りだったが、今のところ俺の頭の中に残ってる記憶は何もない。
…いや?
今日見た夢。ハッキリと脳内に記憶として残ってるけど、これは本当に夢だったのか?
夢にしてはハッキリと記憶に残ってる。これはもしかして、現実に起こった事なんじゃねぇか?
その時だった。
ガラガラ…
俺の病室の引き戸がゆっくりと開いた。スラっとした制服姿の女の子が入ってくる。うわ、顔ちっさ!目もクリッとしてて、モデルみてぇだ。セミロングの髪をサラサラと
「あっ!ようやく意識が戻ったのですね!よかった!」
「あぁ、おかげさまで…」
俺は誰かわからないまま、話を合わせてみる事にした。
「本当に長い間、寝たままの状態だったから、とても心配したんですよ」
女の子は慣れた手つきで花瓶の花を入れ替える。
「あんた、俺の意識が戻ってない時も見舞いに来てくれてたのか?」
「えぇ、毎日」
毎日だと…。コイツは一体、俺の何なんだ?
喋り口調は敬語だし、彼女というわけじゃなさそうだが。でもこんな美人に毎日お見舞い来てもらえる様な人生を送ってたのか、俺は。
くぅ〜!できることなら思い出してみたいもんだぜ。
なんとなく今はコイツに記憶喪失の話をしたくなかった。何より、まだ俺の気持ちの整理すらついてないんだ。この現実を受け入れきれてない状態で、記憶にない奴にペラペラ自分の現状を喋れっかよ。
「毎日って、なんでそこまでしてくれるんだ?」
「それは勿論、私が…」
女の子が何か言いかけたところで病室の扉が開いた。
「準備ができたよ。早速脳内を検査してみよう」
先生がお呼びだ。どうやら、話の続きはまた今度になりそうだな。
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