時を止める暗殺者/どんなチートな転生者でも、彼からは逃れられない!!
殴り書き書店
第1話 全ての終焉を君に……
帝国歴127年。
突然の復活を果たした魔王・グレンタレットの侵攻により、近隣にあったジョイド帝国は未曽有の危機に陥った。
魔物達に容赦なく田畑は荒らし、国力を低下させ。
商業の要である交通網も魔物達に支配され、治安の悪化と共に野盗ばかりが増え。
そうやって野盗や魔物達に襲われ、捕まった人々は、奴隷の様な扱いを受け心が折れて行き。
国は荒廃の一途を辿っていた。
だが、そんな崩壊寸前の廃れ切ったジョイド帝国に、1本の光が差し込む事になる。
ジョイド帝国の惨状を見かねた親愛なる森のエルフ達が、ある召喚魔法を使い彼を降臨させたからだ。
そぉ……彼は異世界から、この世界を救うべく召喚され。
全ての魔法を操り、全ての武器の扱いに長けたチートとも言えるべき能力を携えた男。
その名は!!勇者シギ・オオムラ!!
そんな彼の登場により、この国の状況は一転した。
彼の活躍により、早々に魔王四天王の内2人は即座に討ち取られ。
魔物達や野盗に捕らわれていた多くの国民達も、随時、彼に救出され、奴隷から解放され。
荒れ果てた土地も、彼の豊穣の魔法によりドンドンと蘇り、徐々にではあるが国力も国民の活気も取り戻していった。
そんな勇者……いや、英雄シギ・オオムラは、当然国民には大人気で在り。
その名声は、もぅ既に隣国にまで響きつつあった。
そぉ、彼は、それ程までに性格も良かったのだ。
これ程までの功績を上げても尚、一度たりとも王からの報奨を受け取る事すらなく。
それら全ての報奨を、心や体が傷付いた国民の為に使って欲しいと、国民の前で宣言する程のお人好しップリだ。
性格、能力、全てに於いて彼は人格者だった。
当然そうなったら、そんな彼の勇者的な行動の噂を聞き。
様々な場所から彼を慕って、多くの冒険者や知識人が、この国の為に結集してきたのだった。
***
そして月日は流れるのは早いもので、そんな彼の衝撃的な登場から3か月が経ち。
彼達、勇者一行は、今、四天王が1人女魔将軍・ハインツ=エルン戦い、彼女を捕らえ。
その後、仲間達の反対を制止してまでシギは彼女を見事なまでに懐柔し、自分達の仲間に加えて、国王との謁見に臨んでいた。
「勇者シギよ。此度の四天王討伐の儀、見事であった」
「ハハッ!!王よりのそのお言葉、何よりの褒美でございます」
「そうであるか……しかしシギよ」
「ハッ!!」
「貴殿が仲間に加えし、その魔物の女、我は本当に信用して良いものなのか?」
国を統治する王として、これは当然の言葉だ。
つい数日前までは、魔王軍の将軍として戦っていた女エルン。
そんな敵将だった女が改心したからと言って、即座に信用しろと言う方が、普通ならどうかしている。
……だが、そんな一般論を他所に、当の本人であるシギから出た言葉は。
「王よ。その件に関しまして、王に進言したき事がございます」
「なんじゃ、言うてみぃ」
「人であろうと、魔物であろうと、まずは自分自身が誠心誠意相手を信用する事から始めねば、相手からの信は得る事は出来ません。そこに種族の壁などと言う物は存在しないと存じます」
彼の言い分は正しい。
だが正しいからと言って、それが全て通るのかと言うとそうではない。
当然、疑ってかかるのが人の性だ。
「確かに、それはそうじゃが……」
「もし、それでも王が、私の言葉に信用が置けないと仰るのならば。私はエルンと共に、この国を去りましょう」
「なっ!!」
「私は、それ程までに彼女が裏切らないと信じております」
「何故じゃ?どうしてそこまで、貴殿は、その魔物を信じれるのじゃ?」
王も、勇者自身を不審に思っている訳ではない。
彼の人間性を考えれば、こういう事態もあり得るだろうから、勇者を疑っている訳ではない。
だが、それに反して、誰にどう言われようと、彼女が、本当にそこまで信用の置ける魔物なのかは心配でならない。
王としては当然の態度であろう。
「これは、彼女と戦った者にしか解らない事なのですが」
「うむ、なんじゃ?」
「彼女は真の武人です」
「うん?それが、どう関係するのじゃ?」
「彼女は、私との戦い中、一度たりとも卑怯な戦い方をしようとはしなかった。それ程までに彼女の高潔な精神を見ていれば、彼女の人間性が知れます。ですから、私は彼女に対して、疑い様のない絶対的な信頼を置いております。これは、戦った者同士にしか解らない感覚ではあると思いますが」
「そっ、そうか、お主がそこまで言うのであれば、この者を私も信用したい所だが…‥そこな魔物の女、貴様は、このシギの意見をどう考えておるのじゃ?」
王は納得出来ないまでも納得した感じで、そんな風にエルンに質問をした。
恐らくシギは、本当にこの魔物の女を信用しているのだろう、と感じたからこそ。
敢えて、質問をする対象を、シギから、エルンに変えたのだと思われる。
「そんなものは言うまでもない。私も武人としてシギ殿には感銘を受けている。彼ならば、魔物と人が争う事のない世界を作れる存在だと確信しているからな」
人間側からすれば、思いも寄らない言葉がエルンからなされた。
「なっ、なんじゃと?貴様等魔物が争いを好まないと言うのか?一体、それは、どう言う事じゃ?」
「考えるまでも無かろう。人同様、魔族と言えども、全ての魔族が戦いを好む訳ではない」
「なっ!!」
「基より私は、この魔物と人間が争うと言う構図には疑問があった。そこに、このシギ殿が、戦って敗れた魔族である私に対しても真摯な態度で、それを同意してくれ。あまつさえ同志とすら言ってくれた。その様な種族間すら感じさせない様な人物を信用しないと言う方が、どうかしているのではないか?」
「たっ、確かに、そうではあるな」
シギの前では種族の違いなど、些細な事なのであろう。
そう思わせる言動が、魔物であるエルンから齎されたのでは、もぉ王も二の句が出なかった。
「それに私は、シギと契約を結んでいる」
「契約じゃと?」
「我々魔族は、契約を第一とする種族だ。だから、私が彼を裏切らないと言う証明をする為に、この制約を交わしたのだよ」
「だからか」
「いや、だが、今、貴殿が考えている契約とは、全くこの話は別物だ」
「どう言う事じゃ?」
「こんな契約がなくても、彼は私を信用しただろう」
「なっ!!」
「最初彼は、この私の申し出を断り。【私と貴殿の間に、そんな野暮なものは必要ない】とまで言ったのだからな。だからこれは、貴殿達に安心感を与えるだけに交わされた契約に過ぎないのだよ」
戦いの中、出会ったばかりの2人だったが、もぉそこには完全なる信頼関係があった。
勿論それは、恋愛感情なんて安い感情ではなく。
お互いを本気で認め合ったからこそ芽生えた、友情に等しい武人としての誇りでだ。
何故なら、本来魔族は、この様な自分が不利になるだけの内容の契約を交わしたりはしない。
だから、そこを推してまで無理にシギと契約を交わしたエルンの行為は、もぉ誰もが信用に値する行為でしかなかった。
王も、周りにいる重臣達も、魔族の習性を知るだけに、もぉそれを認めるしかなかった。
「そうであったか。では魔物の女……いや、エルン殿よ。我も汝を信じる事にしよう。魔族の貴殿に、そこまでされても尚、こちらが疑ったのでは、人間側の王としての立つ瀬が無くなるからな」
「御意。人間の王が思うが儘に」
そう言ってエルンは、深々と人間の王に頭を下げた。
こうする事により、周りにいる大臣達も、先程よりも大きな納得を得。
魔物の四天王であった女将軍・エルンは、このジョイド帝国の客将として迎い入れられる事になった。
此処までは万事が全て上手く運んでいた。
そぉ……此処までは。
そんな誰もが歓喜を上げる光景の中、柱の陰で薄ら笑う男さえいなければ……
『これはなんともまぁ、クスリとも笑えない光景だねぇ。面白くもない、とんだ茶番だったな』
その彼の言葉が、この国の終焉の始まりだった。
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