四時プロVS炎上Vtuber

大真の過去

 「無知すぎない?」

 私に言われた言葉––それが、今の私を象徴している。



 

 私の名前は 成田大真(なりたたいしん)。

 名前の由来は昔に活躍した競走馬からとった……らしい。

 『大きな心をもって、人を信じなさい』という意味も込めているらしいけど、私にとっては別にどうでもよかった。

 私にとって、子供の頃からずーっとひたすらに––絵を描くことだけが生きがいだった。絵の事なら何時間でも費やすことができた。


 ……そんな絵だけをひたすらに描いている私を見ていた両親は––

 「絵を描くことだけではいけないよ」と、自分の身の回りの事を最低限できるように学校ではなく、家事や料理を教えてもらいつつ絵に集中させてくれた。

 それは、学校に行っていた自分が虐められていた……無視されたいたこともあったのかもしれない。

 そして、ネット社会での活動を両親がすすめてくれ––私の今ができあがった。



 絵の活動をする……それだけで生きていくことなんて難しい。

 ライトノベルの絵を作成する、ネットで活動している方の絵を作成する…様々な事ができるけど、収入が全く安定しないのが事実。

 「…これでいいのかな」

 両親に何かしてあげたい、何かしなきゃいけない……こうやって学校に行かない事をダメとは言わずに、「自分らしく生きなさい」と新しい道を作ってくれた両親に。

 両親は「大丈夫だよ」と言ってくれていたが、私にはそれが嫌だった。

 だから––ネットで出会った友人に勧められて、四時プロオーディションを受け––Vtuberデビューをした。


 四時プロ。

 今はvtuber事務所として“大手”で総勢100名近いVtuberがココからデビューし、全チャンネルの登録者数は1000万人以上を超えている。

 ……しかし、私がデビューした当時は先輩と言えるのは……三名程しかいない。

 つまり、四時プロはまだ弱小の時に入った。

 「絵描けるんですよね!?じゃあ––」

 事務所のスタッフはそう言って、私の分身になるモデルの作成を私自身がした。それだけではなく、先輩方の新衣装等も担当することになった。

 それは、凄く大変だったけど––凄く充実していた。

 それに、収入も多くなり、親孝行だってできた。

 「ありがとう」

 …その言葉に私は涙した。


 

 そこから、約一年程経った。

 自分自身だけではなく、3名の絵を描く事もあるので、事務所は寮を用意してくれ––私は上京した。

 口下手な私でも––雑談配信、ゲーム実況等である程度の人気を博し、40万以上のチャンネル登録者がいた。

 それでも、絵描き配信は…できなかった。

 「先輩方の活動の妨げになります」

 そんな事務所のスタッフの言葉を忠実に私は守ったからだ。

 今考えれば……そんなの関係ないのに。




 「なんで大真さんはしゃべんないっすか?」

 配信にも少しづつ慣れ、後輩もできた。

 そんな中、事務所が決めたコラボ配信の途中で––後輩の子がノリなのかわからないけど、私に聞いてきた。

 「えと…」

 学校にも行っていない、人との接し方なんてものを知らない私は上手く答えることができないでいた。

 すると、特別に3Dの姿で配信をしている後輩は私に指差しながら––

 「まっ、だからチャンネル登録少ないんですよ」

 きっと悪気はないんだろう、わかっている。でも、それでも苦しくなった。

 その子のリスナーもそんな後輩のリスナーだからなのか––

 ・下ネタ配信とかすれば?

 ・後輩に言われてて草

 ・この配信は大真はいません

 ……そんなコメントが流れて、場は盛り上がった。

 ……これで良い、これが配信なんだ。



 そんな時だ。

 私は声優の山田千里さんに出会った。

 千里さんは気さくに私に話かけてくれ、私の全てを肯定してくれた。

 勿論、最初は絵描きと声優の仕事関係だった。

 でも、いつの間にか何でも相談できる友人へと変化していった。そんな時だ––


 「私の友人が配信しているんだけど、伸びなくて自暴自棄になっているみたいで…どうすればいいと思う?」

 

 急に千里さんから来た相談に、私は素直に返答した。

 

 「その人を信じてあげよう」

 

きっと、この言葉が今になっているんだろう。





 数日後、私は千里さんから連絡がきた。

 「この配信を見て欲しい」

 そう言ってきたラインには––千里さんから依頼されて描いた子が、色々な顔を見せながら配信していた。

 正直言って、事務所の人間からすれば「話下手のVtuber」って思うんだろう。

 でも、私には違った。

 

 “ 「……っはあ、じゃあさ、何が【Vtuber】なわけ?良い道具にしているじゃん。それはリスナーもだけど、Vの本人も––」”


 きっと、言葉の意味は違うかもしれない。

 でも、私からしたら……リスナーに偽った自分を見せている事に対して言われている気がして……何かが自分に刺さった。

 その後も、凸で色々な事を言っていたのも…何故か自分は興味が出た。

 「そっか」

 胸の中にあった……両親にも言われた「自分らしく生きなさい」がふと自分の中に入ってきた。

 だから、配信が終了した後、私は千里さんに連絡し––あの配信をした。

 

 あ、初配信で千里さんの事言っていたけど怒ってましたからね。

 千里さんから「あれは私が仕向けただけだからw」って来たので不問にしましたけど。









 …ってなわけで、今に至るわけです。

 目の前にいる空さんは何故か一緒に住む事を了承していたけど、千里さんはどう思ってるんだろう?

 「ってなわけで、今日は配信しましょう」

 私は寝ぐせのついている空さんに提案した。

 空さんはこの数時間で起こった事を呑み込めていないんだろうけど––それは私もです。

 「私が絵を描きます」

 そう言って、先ほど届いた荷物の中からタブレットを出した。

 「炎上…得意ですもんね?」

 きっと、今日からもっと忙しくなるんだろう。

 

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