夏かしさ。
春原 はなね
思い出。
聞き覚えのある声。
眩しい光。
汗だくになりながら
蝉の鳴き声で目を覚ます。
蒸されているような空気に包まれながら、
重い身体を起こし支度をする。
あぁそっか、夏ってこうだったな。
一年に一度しか訪れないもんだから、
暑さや蝉の鳴き方も
扇風機の心地良さも
翠瓜の味も
夜に咲く花の美しさも全部
夏が終われば忘れてしまう。
大事な思い出さえも同じように。
24時間テレビを見ながら、
徹夜で宿題を終わらせる夏休み最終日。
毎朝のラジオ体操。
歩く度に鳴る水筒の音。
小麦色の肌。
不思議なことに夏の思い出は、
小さい頃のものばかりだ。
歳を重ねるにつれ、
夏を感じる機会が減っていく。
小さい時は抵抗のなかった虫たちも、
今は鬱陶しくてしょうがない。
肌が小麦色に焼けることもなくなった。
祖父母の家に親戚が集まる機会も減り、
宿題も、ラジオ体操もなくなった。
夏が独特な憂いを帯びていると感じるのは
少しずつなくなっていく色々な機会に、
どこか寂しさを抱くからなのかもしれない。
小さい頃は早く大人になりたかった。
でも今は夏が来る度、
子どもに戻りたいと思うのだった。
なんて。毎年こんなことを話しては
人間は、ないものねだりだな。と
会話に終止符を打つ。
あぁそっか、夏ってこうだったな。
蝉たちは今日もけたたましく鳴いている。
思い出の中で。そして今いるこの場所で。
夏かしさ。 春原 はなね @ishi_oto111
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