内緒ないしょのタマリスク
中田もな
ヤドリギ
幻滅とまでは、いかなかった。ただ、足がすくんで、動けなかった。
予備校で講義を受けた、その帰りだった。少し喉が渇いたので、近くの公園に立ち寄って、百五十円のジュースを買った。近くにコンビニがあったのだけれど、何となく、自販機の方が楽だったのだ。
コンビニに行けば良かったな。
頭の片隅で、そう思った。咄嗟にベンチの後ろに隠れたが、心臓がバクバクと音を立てている。
「おじさんって、こういうのが好きなんだね……」
ブランコの支柱にもたれた彼女は、魔女のような笑みを浮かべた。アッシュに染まったショートヘアが、ぼんやりとした街灯に照らされている。
「この格好、ちょっとスースーするなぁ……」
薄いブラウスの布越しに、妖艶に膨らんだ胸を突き出す。男性に触られる度、彼女は淫らな声をあげた。
「ん、いいよ……。もっと、触って……」
彼女の声は夜に溶け、走る風は木々を揺らす。互いに体を寄せながら、二人は行為にふけっていた。
援交だ。
動画サイトで閲覧した、安直な内容が浮かんでくる。「エッチするだけで、二万ももらえるんだよ? ふつーのバイトとか、バカらしくてやってらんなーい」。……これは動画の話だが、彼女も同じことを思って、行為をしているのだろうか。
「あっ、そこ……。すごく、気持ちいい……」
シーソーの裏に隠れた猫も、呑気に交尾を楽しんでいる。何もしていない私の方が、逆におかしく思えるぐらいに。
援交って、犯罪なんじゃないの?
火照る彼女と裏腹に、私の背筋は冷めていた。制服を見ても、間違いない。私と同じ高校の、ごく普通の女子生徒だ。
どうしようかと、私は思った。見て見ぬふりが、一番楽だ。彼女との関わりは一切ないし、何なら私は被害者だ。自販機に立ち寄っただけなのに、まさかこんな目に遭うなんて。早く家に帰って、録画したアニメを観たいのに……。
「あっ……、はぁっ……」
……私は一瞬、ドキッとした。彼女の視線が宙を舞い、端整な顔がより美しく見えた。
エッチだな。
喘ぎ声を漏らしながら、欲望のままに腰を振る。そんな光景を目の当たりにして、私は少し、体が熱くなった。
……いや、何を考えているんだ。
スマホがブブブと振動し、私ははっと我に返った。こんなものを見ていないで、早く家に帰らなければ。私は忍者のように息を潜めて、そっと公園を後にした。
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