漸減
@NyanMaruPo
第1話 夢を見る少女
「寂しくなるね」「またすぐ会えるよ」
卒業証書を握りしめ、思い出作りだと言いながら自分が可愛く写るまで写真を撮り続ける女の子たち。
大して仲良くなったくせに感動の別れを演出して泣いている。
口には出さないがあんまり興味もない。
これからも会いたいと思える人間は数人だし、その子達とはどんな環境だろうが集まりたきゃ集まれるし、今悲しむ理由がピンとこなかった。
感動の卒業式に愛想笑いを続けていると、私のスマホがブブッと鳴った。
思っているよりも早く着いたみたいだ。
校門まで急がなきゃ!
ブォンブォーーン
「なんだあのバイク!他校生か?こらぁ!」
生徒指導の先生が校門まで来たバイクに向かって怒鳴っている。
「おい!あや、もっと走れって!」
エンジン音がドッドッドッと煩いバイクに跨った男の子は、私に向かって大声で叫んだ。
「こうくん、ごめん!お待たせ!」
生徒指導の先生の横を横切り、颯爽とバイクの後部座席に跨り、吊るしてあった私のヘルメットを被る。
「それでは先生方、お世話になりやした〜!永遠にさようなら〜!」
敬礼のポーズを取り、舐めた態度でバイクに乗って下校する形で、私は高校生活の幕を閉じた。
「こうくん、お迎えありがと〜、今日もバイト?」
「おう、辞める日も近いしバイト終わったらお別れ会してくれるらしい。」
「そっかぁ、私の制服姿最後なのに味気ないなぁ。」
「なに?俺がJKもの好きだって知ってて言ってる?」
「えっち!」
「彼氏なんだから別にいいだろ。」
「AVばっか見て!浮気者〜!」
「お前もちょっとは見て勉強しろよ」
「サイテー!」
こうくんは1年前から付き合っている私の彼氏。
超絶イケメンで、同じ歳なのにバイクの免許持っていて、あっちこっち連れていってくれる。
えっちだし、タバコ臭いのはちょっと嫌だけど、優しいし楽しいし素敵な人。
こうくんは来月から就職が決まっていて、大変な日が続くと思うけど、頑張って働いて7月の私の誕生日にはブランドの財布を買ってくれる約束までしてくれた。
大好きな、大切な彼氏。
「あや」
「なぁに、こうくん」
「卒業おめでとう」
「…ありがとう」
私は大学に進学、こうくんは就職で、付き合い続けれるのか不安だけど、私がしっかり社会人への理解を持って支え合えたら大丈夫だよね。
「こうくん、これからもよろしくね」
「ん?おう」
3月のまだ肌寒い空気が私の頬を横切る。
始まりがあれば終わりもある。
不安や名残惜しさはあまりなく、そこには信じてやまない愛があった。
これから先、大学行きながらバイトして、お金貯めて同棲して、サークルで友達作って、無難なところに就職して、結婚して子供産んで、幸せになる。
平凡だけど、人生ってそんなもんかな。
なーんて。
新しい生活が始まる。
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