第51話 自己紹介

 同じ寮のクリードであった。

 彼はにこやかに手を振っている。ぶんぶんと。


 これはこれで恥ずかしいので無視し、教室の様子を観察する。


 男女で反応がくっきり分かれているが、教室の後方と前方でも分かれているような気がする。特に一番後ろの列の生徒は、俺のことを完璧に無視し、教科書や本を読んでいる。


 彼ら彼女たちだけ、制服に見慣れぬ紋章があることに気が付く。


(……あれが特待生(エルダー)か)


 この学院はクラス制で、下等生(レッサー)も一般生(エコノミー)も特待生(エルダー)も同じクラスに所属する。――といっても午前中の授業だけ同じで、午後の授業はそれぞれ違う教室で受けるのだが。


 どうやらこの教室では、下等生(レッサー)が前列、一般生(エコノミー)が中列、特待生(エルダー)が後列と決まっているようだ。


 この国の縮図、身分制度を感じる光景だった。


 まあ、俺は下等生(レッサー)だから、近寄らずに済むという点ではありがたい配慮だが。


 そのように前向きに考えるが、そう考えないものもいるようで――。


 一緒に教室に入ったお姫様は思わぬ提案をする。


「先生!」


 突然、元気よく手を挙げるアリアローゼに驚く女性教師。 


「なんですか? ミス・アリアローゼ」


「突然の入学生で前列と中列の席がすべて埋まっています。リヒト様の席がありません」


「そうですね。たしかに……」


 見ればたしかに席はどこも埋まっている。

 アリアはにこりと微笑むと、提案する。


「そこでなのですが、幸いとわたくしの隣が空いております。よかったらリヒト様の席をここにされては?」


 その提案に激震が走る。

 女教師は顔を蒼くする。


「し、しかし、席次は成績順と決まっているので」


「当座のことだけ。もうじき、席替えの季節がやってきます。それまでですから」


 ほんわかしている割には意外と押しが強い。


 そんな感想を抱いていると、彼女は俺の手を引き、自分の席に連れて行く。


 その光景をぽかんと見るクラスメイト。アリアローゼの行動に女子は反感を持ち、男子は虚を突かれている。


 どうやら彼女は男子から人気があったようで、悔し涙を流すものもいた。


「クラス中を敵に回す主従だな……」


 我ながら呆れてしまうが、苦笑いも永遠には続かない。

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