第49話 謎の視線

 下等生(レッサー)の級友や生活指導の教師の心配りによって無罪放免となった。無論、一般生(エコノミー)たちは敵愾心を燃やしてくるが、思ったよりも嫌がらせはなかった。


 ヴォルクが無残にして惨めに返り討ちに遭ったという話は、彼らの中にも伝わっているようで、同じ轍を踏もうという輩はいなかったのだ。


「多少なりとも知恵は回るようだ」


 と評すが、ゆえに厄介かも知れない。今は様子を見ているだけで、今後、「俺を追い落とせる」と判断すれば徒党を組んで襲いかかってくるかも知れない。


「まあ、あの手合いが何人来ても恐れることはないが」


 そのようにつぶやくと、王立学院の学生生活になじむことを心がけた。


 王立学院は初等部、中等部、高等部に分かれている。各学部、二~三年所属し、一定の成績を修めれば進級できる制度だ。俺は一五歳だし、中途入学なので中等部生徒となる。


 アリアローゼ姫と同じ学年である。

 クラスも同じである。


 神の配慮だろうか、と一瞬思ったが、小悪魔のようなメイドさんが補足してくれる。


「王族をなめないでよね。それくらいの融通効かせられるんだから」


 ドヤ顔のマリー。どうやら裏でなんらかの力が動いていたようだ。


 面倒なので細かいことは聞かないが。


 さて、同じクラスになったからには、一緒に登校してもいいだろう、と一緒に歩みを進めるが、途中、視線に気が付く。


(……護衛としてさっそく出番かな)


 あまりにもな視線に最初、戦慄するが、その視線のおかしさに気が付く。


(おかしい……。姫様ではなく、俺に視線が集まっている)


 もしかして手練れの暗殺者なのだろうか?

 通常、暗殺者は標的(ターゲット)に集中する。


 暗殺に熱中するあまり、周りが見えないパターンが多いのだ。


 しかし、熟練の暗殺者の中には標的よりも護衛に注目するものもいる。


 ――という話を剣術の師匠に習ったことがある。


 熟練の暗殺者はより視野が広く、厄介、ということである。


 さすがは一国の姫君の命を狙うものだ。

 大枚をはたいて優秀な暗殺者を雇ったのだろう。

 そう解釈し、そのものを見つめる。

 一応、物陰に隠れて俺のことを見つめている。


 暗殺者と思わしきものは上半身だけ突き出し、こちらを覗き込んでいた。素人丸出しであるが、あえてそうしているのかもしれない。


 性別は女。

 この学院の生徒だ。

 制服を着ている。


 年齢は俺と同じくらい。学年は一緒のようだ。蒼いリボンをしている。


 一見、どこにでもいるような女学生にしか見えなかったが、むしろこのような生徒のほうが怪しい。真の暗殺者こそどこにでもいるような凡人に偽装するものだ。


 最上級の警戒心を持ち、腰の神剣に手を伸ばすが、それをメイド服の少女にたしなめられる。というか笑われる。

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