第34話 ドワーフのセツ

 学生寮に向かうと、気のいい中年の女性が、

「あんた、もしかして今日、入学するっていうリヒトちゃんかい?」

 と尋ねてきた。


 ドワーフの中年女性で、ほがらかにして気やすい態度の女性。いわゆる田舎のおばちゃんを絵に描いたようなタイプだ。


 名前をセツというらしい。


 セツはきやすい態度でぼんぼんと俺の背中を叩くと、


「学科長から聞いてるよ。季節外れの転入生がくるって。あんた、エスタークからきたんだって?」


 と、ほがらかな笑みを見せた。


「……その近辺にあるアイスヒルクという街出身です」


 身分を隠すために嘘をつく。


「そうかい、どちらにしろ、北の人だね。寒さには強いだろうが、今日はなんだか、底冷えするだろう。今、あたいがジンジャー・ミルクティーを作るから、待っていな」


 そう言って厨房に向かおうとしたが、途中、戻ってくる。


「そっちの綺麗な特待生(エルダー)ちゃんは恋人かい? 入学早々にやるね」


 と小指を立てる。


 まったく、いつの時代の人だ。そんなふうに溜め息を漏らすが、アリアは悪い気分ではないようだった。


「普通の職員は下等生(レッサー)と特待生(エルダー)を恋人に結びつけようとはしません。慧眼の女性です」


「俺たちは恋人じゃないが」


「ですが、恋人よりも密な絆で結ばれた関係です。〝命〟を守って貰う関係ですから」


「なるほど、まあ、たしかに見る目はあるのかも知れない」


 そう漏らすと食堂に向かう。おばちゃんが大声でおいでと言ったからだ。


 立派な食堂の椅子に座っていると、豆を煎って蜂蜜を添えた菓子と、ジンジャー・ミルクティーが出てくる。両者、なかなかの甘露だった。


「これを入れるのはコツがあってね、ジンジャーをその場でみじん切りにするのさ。作り置きは駄目。香りが落ちるから。それに――」


 延々と続くセツの話、このままでは日が落ちてしまいそうだったので、豆と飲み物を頂くと、「美味しかったです」と礼を言い、この寮の寮長に話を繋いで貰えないか頼んだ。


「ああ、そうだった。あたいはただの食堂のおばちゃん、寮長様に話を付けないとね」


「ジンジャー・ミルクティ、大変、おいしゅうございましたわ」


 にこりと微笑むのはアリア。生来の品の良さが滲み出ている。


「お粗末様だよ。じゃあ、今から呼んでくるね。あんたら、寮長室は分かるかい?」


「一階の奥でしょうか?」


「その通り。そこで待ってておくれ」


 セツは気やすく言うとそのままどこかに消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る