最強不敗の神剣使い
羽田遼亮
第1話 無能者リヒト
「リヒト兄上様は無能ではありません!!」
凜とした声が城内に響き渡る。
俺のことを擁護してくれている可憐な少女の名前はエレン・フォン・エスターク。
エスターク伯爵家のご令嬢だ。
俺の妹でもあるのだが、いわゆる腹違いというやつで身分が違う。
俺の母親は粉ひき小屋の娘で、父親であるエスターク伯爵が遠乗りに出掛けたときに見初め、連れて帰った女性だった。伯爵にはすでに妻子がいたので、母はいわゆる妾というやつだ。
妾というやつは古今東西、肩身が狭く、虐められるものだが、母親もその例外ではなく、正妻や侍女たちに虐められたという。
そんな母親もすでにこの世の人ではないが、虐めは今も継続して行われていた。
妾の子である俺は目の敵にされていたのだ。
まずは俺は「フォン」を名乗ることが許されていない。フォンというのはこの国の貴族が姓名の間に入れる称号で、これがあると貴族という証拠になる。
ゆえに俺は、リヒト・フォン・エスタークではなく、リヒト・エスタークと名乗っているわけだ。
伯爵の正妻などは「エスタークの名を名乗るだけでも汚らわしい」とそれさえ反対しているらしいが、親族たちが家名だけは名乗らせてやらねば体裁が悪いと説得してくれたので、エスタークを名乗ることを許して貰っていた。
さて、話がずれたが、エスターク家において俺がどのような立ち位置なのか、分かりやすい説明だったと思う。
つまり俺はエスターク家にとって「忌み子」というわけだ。
その立場(ヒエラルキー)は限りなく低く、家来も同然の扱いで、本来、正妻の娘であるエレンに庇って貰うことなど有り得ないのだが、彼女はことあるごとに俺を庇ってくれた。
今日も「リヒト兄上様は無能ではありません!!」とエスターク家の正妻、つまり自分の母親と口論していた。
彼女の母親、ミネルバは嫌みたらしい声で言う。
「エレンは優しいのね。そんな〝犬〟よりも使えない無能を庇うなんて」
「何度も言いますが、リヒト兄上様は無能ではありません」
「いいえ、無能よ。それを証拠に〝そいつ〟は魔法が使えないじゃない」
「……それは」
言いよどむエレン。
――そう、俺は魔法が使えないのだ。
「我がエスターク家は代々、筆頭宮廷魔術師を輩出してきた家柄。魔法によってこの国に仕えてきたのよ。それなのに魔法が使えないなんて、本当にエスターク家の子供なのかしら」
「リヒト兄上様はエスターク家の血筋です! お父様の息子です!」
エレンが抗弁してくれるが、俺の出自が疑わしいことは、俺が母親の腹の中にいた頃からいわれていたことだった。
財産ほしさに種を偽った不義の子、母親はそう罵倒されていたという。
しかし、俺が生まれ、その肩にエスターク家の紋様が浮かび上がることによってその疑惑は払拭された。エスターク家の子には必ずこの紋様があるのだ。
――それでもミネルバなどはいまだに疑いの目を向けてくるが。
構っていたら身が持たないので、無視しているが、彼女は俺が魔法を使えないことを蒸し返して俺をなじる材料にしたいようだ。
「落とし子とはいえ、名門エスターク家の息子が魔法を使えないのでは話になりません」
「リヒト兄上様は魔法は使えませんが、その代わり剣術は素晴らしいです」
「あら、それはいいわ。ならば家を追放しても食べていけるわね。傭兵でもやりなさいな」
「追放とはなんですか!?」
「その言葉の通りよ。この落とし子も一五歳、つまり成人になったのだから我が家で養う理由はないわ」
「しかし、他の兄上様方はまだ家にいます」
「当たり前でしょう。私の息子であり、あなたの兄なのだから」
「リヒト兄上様も兄です」
「エレン、あなたは子供の頃からこの落とし子の肩を持っていたけど、それも今日までよ。これは決まったこと。もし、明日までに〝魔法の才〟を見せれば話は別だけど」
「どういうことですか?」
「そのままよ。この家を追放する前に、一応、魔力が本当にないかテストをするの。最後の慈悲だわ」
「……それに合格すれば追放は撤回して頂けるのですね」
「そうよ」
「……分かりました」
妹のエレンはそう言うと、スカートの裾を持ち、頭を下げた。
この場を辞する許可を求めたのである。
彼女は母親の許可が下りる前に、肩を怒らせながら、大股で部屋を出ていった。
「リヒト兄上様! 行きましょう!」
そう大声を張り上げると、俺の手を引っ張り、武器庫へと向かった。
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