【クレイジーコメディ】三歩行《ゆ》けば不倫

crazy’s7

今宵も俺は三歩行く

その日、俺は

───22時。


 俺は、玄関前に召喚された。


 ことの発端は高床式住居で、『リアル体感型すごろく・三歩行けば不倫』を手に入れたからだ。お値段、500円。お手頃である。

 しかしこのすごろくを購入後、値段によって進める歩数が違うことに気づいた。嘆いても仕方ない、とりあえずやってみようと箱を開いたら、ここに居た。


「まずは、説明書だな」

 俺は説明書を開いてみた。

 どうやら、チュートリアルがあるらしい。

「何々、進む方向は前後左右。1日3歩。遊べる時間帯は14時~15時までと21時~2時まで」

 不倫に最適の時間帯らしい。

「三歩で誰かにエンカウントし、イベントが発生すれば不倫が成功。未婚の場合は振り出しに戻る」

 なんという、無理ゲー!

「なお、チュートリアルには音声説明がつきます」

 なかなか親切設計。


 こうして俺の不倫ライフは始まったのだった。


 俺はすごろくの箱を抱きしめて家に着いた時のことを思い出す。

『ムフフ……』

 高床式住居で『リアル体感型すごろく・三歩行けば不倫』を手に入れた俺は上機嫌だった。

『ついに……ついに! この時が来た』

 初恋と言えば小学校の時の担任。Fカップ美女。名前は忘れてしまったが胸のサイズは鮮明に覚えている。

(ほぼ胸しか覚ええないだろ!)

 残念なことに彼女は体育教師と結婚してしまった。

 短い青春よさようなら。ああ無常。


 俺はいつかあの時の悔しさを!

 いや二次元でもいいから彼女を取り返そうと決めたんだ。そう、決めた。今決めたんだ。

(今かよ!)

 顔も名前も忘れてしまったが、胸の形は覚えているんだ。こう……。

『あッ』

 俺は形を手で表現しようと夢中になり、すごろくの箱を地面に落としてしまった。なんたることだ。

『Fカップが汚れてしまう! 俺ええええええ!』

 その場で悶絶したが、腕に抱いているのはF美女ではなくすごろくの箱。どうかしている。

(どうかしていなかったことは、かつて一度もない)


『おかえり、バカ息子』

 玄関先に着いた俺は、お隣に回覧板を届けに外に出た母と出くわした。

 my mom. sweet angel.

 見た目だけはな!

 若作りにもほどがある。Fカップだから許すがな。

『いい加減、社畜は辞めて転職しなさい』

 就職してからほぼ毎日のように転職を勧めてくが、しつこいにもほどがある。

『いつになったらこのバカ息子は、私の言うことを聞くようになるのかしらねえ』

 頬に手を置き、ため息をつく姿は正に天使。見た目だけは。

 そして彼女から生まれたはずの俺はなぜモテないんだ!

(性格に難ありだから。いい加減気づこう)


「あと4、5年経てば言うことも聞いてやらんでもない」

 俺の上司はFカップ美女。辞めるわけなかろう! まだ手も握ったこともないのに。

(それはセクハラだ)

『それまで生きているといいわねえ』

 呆れ声の母の声がため息をつく。いつものことだ。


「いかんいかん、回想している場合ではない。夢を叶える時がついに来たのだ。さあ、チュートリアルを始めよう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る