ひっつき虫

ネルシア

ひっつき虫

私の友達はよくひっついてくる。

それが嫌かと言われると別にそうでもないわけで。

でも、距離が近すぎると思うことはままある。


いつも通り、2人でカフェの新作を買って賞味する。


「ねー、飲ませてよ。」


そう言うや否や、私の断りもなく、私が手に持っている飲み物のストローをちゅーっと吸う。


「うわ、こっちうまー。」


「もー、あんたのもよこしなさいよ!!」


「えぇ~、やだぁ~。」


キャッキャとじゃれあう。

傍から見たらうるさい女子高生が2人いるだけだろう。


空になった容器を握りしめながら次何する?と他愛もない会話をする。

その間も、友達は私の腕をぎゅっと抱きしめているのだけれど。


「うっわ、もうこんな時間。ごめん、私バイトあるから。」


そういってきつく抱きしめられた腕を半ば強引に振りほどき、またね、と手を振り駆け足でバイト先へ急ぐ。


次の日、同じクラスの子が興奮気味に私に近寄る。


「ねぇねぇ、いつも2人でいるの?」


そのテンションの高さには多少たじろぐものがあったが、普通に返事をする。


「・・・言われてれてみればそうだね。」


そう返事をするときょろきょろとあたりを確認して、私の耳に口を近づける。


「あの人って自分の体に触れるのがめちゃくちゃ嫌いで、

 問題起こしたこともあるんだって。

 それで、わざわ2時間くらいかけてここまで来てるらしいよ。」


固まる。

そんな素振りは見せてないのに・・・。

むしろ鬱陶しいくらいべたべたしてくるのに・・・。


「もしかしたらあんたの事好きなんじゃないの!?!?!?きゃー!!!!」


そういってどこかに行ってしまった。


ただただぽかーんとするしかなかった。

でも、そんなこと言われて意識しないわけもなく、放課後にいつも通り会う約束をしていたのを思い出し、気まずくなる。


いつも通り腕を取られそうになり、思わずひっこめてしまう。

いつも通りのことをさせてもらえない驚きからか、友達は硬直してしまう。

私もやってしまったという思いから硬直してしまう。


「・・・何かあったの?」


恐る恐るそう聞かれる。

この子が?

触られるのが苦手?

問題起こした?


それがぐるぐる頭の中を駆け巡ってしまう。


「・・・はぁ、こっちおいで。」


いつもの友達とは違う低い声。

手を引っ張られて気が付けば学校の女子トイレの個室に2人きり。


「えっと・・・?」


「多分私の事聞いたんでしょ?」


こくりとうなずく。

顔を上げられない。


「はぁ・・・まぁ、この際全部言うよ。」


そうして、友達が自分のことを話し始める。


私、こう見えてもいじめられててね。

とはいっても間接的というか、噂話を毎日される程度だったんだけど。

それくらいなら精神やられたけど、学校に行けなくなるほどじゃなかった。

でも、それがだんだん物理的になってきたのよ。

殴る、蹴る、髪の毛引っ張る、わざとぶつかる。

そのうちに誰にも触られたくないって思うようになって。

それが少しずつ溜まっていって、結局最後は爆発。

持ってたボールペンを私をいじめてた子に突き刺しちゃったわけ。

それで、なぜか私だけ悪いってことになって、その近辺の学校には行けなかった。

んで、この学校にしたってわけ。


「でも、なんで私にはこう・・・。」


話を聞いたが1つだけ腑に落ちない。

触れるのが苦手になったのなら、なぜ、私は大丈夫なのか。


「・・・それは・・・だって・・・その。」


急に声が小さくなる。

よくわからない。

早くこの空間から逃げ出したい。


ぎゅっと目をつむると何故かある思い出が鮮明に思い出された。


あれはまだ入学して1か月のころ。

私は付属中学の上がりだったため、学校の構造にはなんも問題はなった。

でも、案内図を見て困った顔の女の子を見つけた。


「どうしたの?」


と声をかけると、ヒッと小さな悲鳴とともにこわばってしまった。


「驚かすつもりはなかったんだけど・・・。」


あっははと取り繕う。

持っている教科書を見ると、科学の文字。


「理科室に行きたいの?」


こわばっている子がこくりとうなずく。


「こっちだよ、おいで。」


そう手を握って一緒に歩く。

そう、その子こそ、この友達なのだ。


「え、待って・・・そうだとすると・・・。」


まさかとは思うけど、そんなべたな・・・。


「その時の私の親切心に安心して私だけには触れるようになって・・・

 さらに、す、すすす、好きになった・・・なんて・・・。」


友達の髪が逆立った気がする。

しかも急に泣き出してしまった。


「そうだよぉ・・・あんたのせいで・・・こんな苦しい思いだったのぉ・・・。」


どうどうどうどう。


「友達で満足しようとしてた・・・。でも無理・・・。」


「・・・泣いてるところ悪いけど、私なんかでよければ。」


「え?」


泣いてたのが急に止まる。


いやあ、別に恋愛って私よくわからないし、でも好かれるのは悪い気はしないし。

男と付き合うのもなんか違和感あるし。

なら別に付き合わない道理はない。


「いいのね!!!!!」


「いいよぉ~。」


その日からひっつき虫からキス魔になりましたとさ。


-Fin-

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ひっつき虫 ネルシア @rurine

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