降りしきる雪をすべて玻璃に~大正乙女あやかし譚~【改稿版】

遠野まさみ

プロローグ

プロローグ

雪が深々と降り注ぐ中、幼い華乃子は、その子におにぎりを差し出した。


「これ、はなゑが作ってくれたおにぎりよ。美味しいからお食べなさい」


少年は華乃子からおにぎりを受け取ると、しもやけだらけの小さな手で、むしゃむしゃとおにぎりに食らいついた。


「美味しい! 美味しい!! ありがとう、君やさしいんだね」


褒められて華乃子は良い気になって、少年がおにぎりを最後の一粒まで食べつくすのをじっと見ていた。最後の一粒は、少年の親指についた米粒。それを、お米には神様が宿ってるんだよね、と言い、頬を紅潮させてぱくりと食べきってしまうと、少年は華乃子に手を差し出すよう求めた。


「手を?」

「手、上に向けて。……そう……」


少年はそう言うと、華乃子の手のひらにきらきらと白く光る小さな雪ウサギを乗せた。


「わあ、かわいい!」


雪ウサギを見て目を輝かせた華乃子に、少年は照れくさそうに笑って、こうも言った。


「今度会えたら、もっと素敵なものをあげる。だから待っててね」


『もっと素敵なもの』が何なのか分からなかったけど、こんなにかわいい雪ウサギを作ってくれるんだから、その、『もっと素敵なもの』が楽しみだ。華乃子が少年に向かってありがとうと言って手を振ると、少年も手を振り返して、またねさよなら、と別れた。








通りすがりに会っただけの子供との『今度』が何時になるのかなんて、その時華乃子は分からなかったが、少年はきっと約束を守ってくれるだろうと、嘘のない真ん丸な瞳を思い出しながら、そう思った。

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