第11話『長老、セイル・エターナリスト』

 もうすっかり日が暮れていた。

 しかし十人のNWSリーダーたちは脇目も降らずに作業に没頭していた。

 噴水の水は真っ黒で見分けもつきはしない。

 すると、ランプを提げて里人が何人か近づいてきた。

 その中の一人が彼らに声をかけた。

「いったいこれはどうした騒ぎだね?」

 優しい穏やかな声は老人のものだった。

「セイル長老!」

 白髪を肩に垂らし、白髭を鼻の下に蓄えた、背中の曲がった老人。

 彼こそは童話の里の長老だった。

「理由を話してごらん、マルク君。ん? そんなにずぶ濡れになって」

「実は――」

 マルクがいつものように理路整然と説明する。

 笑話の里から、おもちゃの浄化の依頼があったこと。

 引き受けてみたら相当の情念がこもっていて、異空間に引きずり込まれたこと。

 精霊供養のおもちゃのため、大勢の子どもの霊に会ったこと。

 説得して現世に還ってくるように諭したこと。

 そのために急いでおもちゃを浄化していること――。

 セイル長老は相槌を打ちながら聞いていたが、ランプを提げていた他の里人に指示を出した。

「君たちご苦労だが、彼らを手伝っておもちゃをすすいでやってくれ」

「はい」

「了解です」

 噴水の周囲が光の精霊の光球によって明るく照らし出される。

 そして、集会所を背に水の精霊が呼ばれ、異空間から異空間に流れる滝が出現した。

 NWSリーダーたちによって洗われたおもちゃは里人に渡され、洗い流されて、少々黒ずんでいるぐらいにまで浄められた。

 するとどうだろう。

 まるで泡のような光のオーブが辺りにふわりふわりと浮いている。

 おもちゃを乾かすために呼んだ火の精霊の側ほどオーブは多く集まっていた。まるで子どもたちが焚火に当たっているようだ。

 セイル長老が乾かし終えた人形の女の子を両手に持ち、高々と抱え上げて言った。

「さぁ、みんなキレイになったぞ。だけどみんなボロボロじゃ。儂らが直してやるから、もう一日だけ待っておくれ。今日はあったかい布団でゆっくりお休み」

 オーブがおもちゃに吸い込まれていく。そして静かになった。

「みんなご苦労だった。おもちゃは儂が預かろう。一日中作業のし通しで疲れたじゃろう。今日はこのまま帰りなさい」

 後にはこれ以上ないくらい黒い泡で汚れた噴水が残った。

 しかし、翌日には清水を溢れさせて元に戻っていたのである――。


 




















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