第一部

第1話 『因果界の新年会』

 万世の秘法に焦点を当てよう。

 超能力者は通称、位階者と呼ぶ。

 七つある宮廷国の首都の上層に、統括本部・支部が置かれ、位階者らの活動拠点は『~の里』になっている。

 そのうち、統括本部のあるパラティヌスの活動拠点『童話の里』。

 小さな噴水広場では、新年会が催されていた。

 昔ながらの古ぼけた里村ではあったが、この日は無礼講。

 老いも若きも飲めや歌えの大騒ぎである。

 あちこちで歓声が上がり、グラスを鳴らす音、ダンスのドタ足、慣れないパフォーマーまで飛び出して勝手気ままに振舞う。


 童話の里でも、指折りの環境修復技術協賛団体である『NEW WORLD SENSATION』、通称NWSの十人のリーダーたちも参加している。

 二十代後半から四十代前半の中堅が揃っていたが、忌憚のない意見が出しあえる、風通しのいい人員で構成されていた。

 しかし、全員が待ちぼうけを食っている。メンバーが一人足りないのだ。

「遅いな、ポールのやつ……」

 8班リーダー、タイラー・アスペクターが腕組みして言った。

 180センチ以上の長身で、一張羅の革ジャンを着こなしたタイラーは、人が気圧されるような雰囲気が異色の人物である。

「ったく、普段は頼まれなくても仕切るくせに、みんな揃ってやろうって時には自由さを発揮するんだからね!」

 7班リーダー、キーツ・アスペクターがテーブルを人差し指で叩きながら愚痴る。

 小柄でアイドル顔のキーツは、仕事の傍ら、アマチュア音楽家として活動していて、見た目はロックミュージシャンだった。

「たぶん、また恒例のサプライズだよ」

 2班リーダー、ナタル・アスペクターがしたり顔で言う。

 ぬぼーっとした風体に坊主頭が特徴のナタルは、十人の中で唯一の妻子持ちで、身なりに野暮ったさはない。

「誰かいい人紹介したら? アロンが有力じゃないの」

 3班リーダー、オリーブ・アスペクターがアロンをからかう。

 背がスラリと高く、モデルのような容姿のオリーブは、金髪をボーイッシュにショートにしていて、カジュアルな服装をしている。

 対して、9班リーダー、アロンはこれまた自分の容姿を熟知している二枚目で、グレイッシュな髪を掻き上げて言うことには

「俺と付き合いたがる女の子の中に、ポールの奔放さを押さえられる子がいると思うか?」

とのことだった。

 じっと目を閉じて真央界を透視していた1班リーダー、マルク・アスペクターは、ふうっと吐息をついた。

「いたぞ」

 全員の視線がマルクに集まる。

「どこにいたって?」

 キーツが問い返す。

「メーテスの主街道にある造り酒屋の前で、甘酒のテイクアウトの行列に並んでる」

「はぁっ?!」

 呆れる面々。

 手堅いところが重宝されているマルクは、淡白な顔立ちに清潔感のある服を心掛けていた。

「お題が出ましたね、何をしているんでしょうか?」

 10班リーダー、ルイス・アスペクターが身を乗り出した。 

 ひょろっとして細面のルイスは、スキニージーンズを好んで穿いた。

「ズバリ、造り酒屋に星が点いた」

 オリーブが人差し指を前に振った。

「売り子が美人だった」

 ナタルが続いた。

「普通のおばちゃんだけどな?」

 マルクがやんわり否定した。

「わかった、サプライズの帳尻が合わなくて、言い訳の中立案を取った」

 アロンが言うとみんな唸った。

「そこまで手は込んでないと思うわよ」

 あっさり言ってのけるトゥーラ・アスペクター。

 長い黒髪にしっとりと上品な顔立ちのトゥーラは、トラッドな装いを好んだ。

「まぁまぁ、皆さん。案外ボランティアかもしれないじゃないですか?」

 6班リーダー、ランス・アスペクターがなだめた。

 牧師をしているランスは、栗色の髪を肩で切り揃えて、黒い詰襟福をきちんと着ている。

 はたして真相は――?

















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