翔べない天使が翔んだ夜〜あなたに恋して幸せでした〜
かいんでる
舞い降りる光
「先輩! 早く行きましょー!」
「
俺は
朝から元気な沢城
「シャキシャキ仕事して昇進しましょうね。先輩」
「俺が昇進するなんて有り得ないよ」
「またそんなこと言う! 一回くらいの失敗で諦めないでください!」
「三回だ。それも、会社がピンチになるレベルを三回だ」
「あぁ~そうでした~」
順風満帆の業務成績で浮かれてた俺は、クビになってもおかしくない失敗を、去年一年で三回もやらかした。
それまでの業績を考慮してくれたらしく、クビにはならなかったものの、島流し同然の配置転換となった。
「先輩! ドンマイですよ! がんばって昇進です!」
「なあ、沢城はここがどんな部署か分かってるのか?」
「総務九課! 仕事は雑用! 今年四月の新設ながら、早くも監獄と噂される部署です!」
「そうだ。そこへ降って湧いたのが沢城だ」
「降って湧いたとは随分なお言葉ですね。監獄に囚われた王子を救うため、颯爽と舞い降りた天使ですよ」
「誰が王子で誰が天使だ」
「先輩が王子でわたしが天使ですよ」
「はいはい」
「と言うことで、朝の御用聞きに行きますよ! 監獄脱出への第一歩です!」
「前向きすぎて頼もしいよ」
九課の朝は、各課へ雑用を聞きに行くところから始まる。自ら雑用を探しに行くのだ。
電球の交換、窓ふき、お昼ご飯の注文、備品の修理など、雑用が無くなることはない。
「みなさーん! おはようございまーす! 何か御用はございませんかー!」
「おっ、来たな元気娘」
「おはよー沢城さん」
「今日も笑顔がかわいいねぇ」
沢城は社内で評判がいい。正直、総務九課は沢城のおかげで何とかやれてる。
救いに来た天使と言うのも間違ってないかもな。
「早速だけどコピー頼んでいいかな?」
「はーい! お任せください!」
「そこにある荷物を倉庫に運んでもらっていいかしら?」
「かしこまりましたー! ほら、力仕事は先輩の出番ですよ」
「おっ、おう。わかった」
「もっと元気よく返事してください! はい喜んでー! 復唱!」
「居酒屋かよ……」
総務九課に配属になった時に辞めるつもりだった。
しかし、今は目標があるから辞めるつもりはない。
沢城をここより良い部署に配属させてやる。
それまで辞める訳にはいかない。
それにしても、なぜ新入社員がこんなところに配属されたんだ?
今さらだが、沢城に聞いてみるか。
倉庫で荷物整理しながらなら自然に聞けそうだ。
「なあ、沢城」
「なんですか? 先輩」
「お前、何でここに配属されたんだ? 入社前から何かやらかしたのか?」
「入社前からって何ですか。わたしは何もやってませんよ」
「じゃあ何でだ? 新人が配属されるようなとこじゃないぞ。思い当たることはないのか?」
「ありますよ」
「あるのかよ」
「わたしが総務九課への配属を希望したからです!」
「はぁ? どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。わたしが希望したんです」
「だ、か、ら、何でこんなとこ希望したのかって聞いてんだよ」
「新設の部署があるって聞きまして、面白そうだなぁって思ったんですよ」
「面白そうって……」
「新しいこと始めるって、何かワクワクしません?」
「業務内容が雑用じゃなきゃワクワクしたかもな」
「業務内容も聞かずに決めちゃったんで、雑用って聞いたときはさすがに笑っちゃいましたけどね」
「そこ笑うとこかよ」
「だって、雑用ですよ。そんな部署聞いたことないですよ」
「人の話みたいに笑ってるお前を尊敬するよ」
「思い出したら可笑しくなっちゃいました!」
あの笑顔を見てると、この状況を楽しいと錯覚してしまう自分がいる。
沢城には人を楽しい気分にさせる才能があるらしい。
「この部署を希望して後悔してないのか?」
「してないですよ。こうやって先輩と仕事してるの楽しいです!」
「そうか。ならいいんだけど」
「先輩は楽しくないんですか?」
「俺が楽しいって顔してたことがあったか?」
「ないです。いっつもドンヨリした顔してます」
「それが答えだ」
「人生楽しんだもん勝ちですよ。どんな状況でも楽しいことはあるはずです!」
「監獄に飛ばされて給料ダウン。趣味と呼べるものはなし。遊びに行くような友達はいない。ペットは飼ってない。彼女もいない。どこに楽しいことがあるんだ?」
「先輩。なかなかにネガティブですね」
「そりゃネガティブにもなるさ」
「そうだ! わたしが彼女 (仮)になってあげましょうか?」
「なんだ(仮)って」
「仮の彼女ですよ。本当の彼女じゃないですよ」
「彼女もどきに何の意味があるんだよ」
「先輩がわたしに高級な食事おごってくれたりとか、何かプレゼントしてくれたりとか、恋人気分が味わえます!」
「それって、お前のメリットしかないんじゃ……」
「あはは。バレました?」
「まったく。彼女もどきじゃなくても、食事くらいおごってやるよ。高級なのは無理だが」
「本当ですか! じゃあ、今日はお寿司がいいです! 廻るやつで良いですよ」
「今日はって……毎日おごったりしないからな!」
「それは残念」
沢城は本当に楽しそうに笑う。俺はその笑顔に癒される。
感謝の意を込めて、近いうちに食事へ連れてってやるか。
「食事は連れてってやるよ。俺はいつでも空いてるから」
「じゃあ、今日連れてってください!」
「今日? 確かにいつでも空いてるとは言ったが」
「わたしも毎日空いてますから!」
「だからって毎日はおごらんからな!」
「わかってますよぉ。とりあえず今日連れてってくださいね」
「わかった。帰りに廻る寿司な」
「やったー! これで仕事もがんばれるってもんですよ!」
本当に楽しそうに笑うやつだな。
社内であの笑顔に惹かれるやつは多い。
入社して三ヶ月で既に三人に告白されたらしい。
そして、三人は見事に散ったそうだ。
「沢城は彼氏とかいないのか?」
「いませんよ。いたら先輩と食事行くと思います?」
「そうだな。俺と食事行ったって楽しいことなんてないわな」
「そんなことないですよ。先輩といるの楽しいですよ!」
「こんなのといて楽しいのかよ」
「先輩はわたしといて楽しくないんですか?」
「なんで怒ってんだよ。まぁ、楽しくないことはない」
「なら良いです!」
「喜んでもらえて何よりだ」
人生楽しんだもん勝ちか。
少しは沢城見習ってみてもいいかもな。
こんな風に考えられるのも沢城のおかげだ。
今日は腹一杯食べさせてやるか。
「本当に回転寿司で良かったのか?」
「今日は回転寿司が良かったんです」
「そうか。それなら良いんだが」
「先輩。何食べても良いんですか?」
「遠慮しないで好きなもん食え」
「やったー!」
「食べ過ぎて倒れるなよ」
「倒れたら先輩が運んでくださいね」
「倒れるなよ」
「運ぶときはお姫様だっこでお願いしますね」
「倒れるなよ」
「そのままベッドまでお願いしますね」
「倒れるなよ」
「でも襲っちゃだめですよ」
「くだらんこと言ってないで食え!」
「はーい! いただきまーす!」
そう言えば、人と食事するのは久しぶりだ。
やはり一人で食べるよりは良いもんだな。
そう思えるのは、楽しそうに食べる沢城を見てるからかも知れん。
「先輩。なにニヤニヤしてるんですか」
「うん? ニヤニヤしてたか?」
「思いっきりしてましたよ」
「そうか。気づかなかったな」
「はは〜ん。わたしが彼女 (仮)になって嬉しいんですね」
「嬉しいと思える要素にはなり得ないな」
「それは残念」
そう言って笑う沢城がとても魅力的に見えた。
「彼女 (仮)じゃ嬉しくないですよね」
「彼女もどきだからな」
「じゃあ、本当の彼女になってあげましょうか?」
「はぁ? な、なに言ってんだお前」
「だから、先輩の彼女になってあげましょうか?」
「い、いやいやいや、突然何言い出すんだよ!」
そんな真剣な顔で俺を見つめるな!
彼女いない歴=年齢の俺には対処方法がわからん!
「冗談ですよ! なに顔真っ赤にしてんですか」
「だ、だろうな。わ、分かってたさ!」
「やっぱり、先輩といると楽しいです!」
「そ、そりゃ良かったな」
楽しそうに笑ってやがる。
こっちは心臓が高速稼働して破裂しそうだってのに。
しかし、からかわれてるのに嫌な気持ちにはならないな。
なぜか心地良さを感じてしまう。
「先輩ごちそうさまでした!」
「満足したか?」
「はい! 慌てふためく先輩も見れましたし満足です!」
「慌てふためいてない。捏造された記憶は捨てろ」
「はいはい。そういう事にしておきます」
「そういう事にしといてくれ。じゃあ明日またな」
「はい! また明日から昇進目指してがんばりましょー!」
笑顔で手を振る沢城が輝いて見えるな。
お前がいてくれて助かったよ。ありがとな。
沢城のために、明日も雑用がんばるとするか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます