第4話
何か声が聞こえる!
「ウヒョ~~!! ウヒョ~~!!」
「カルミアさん、何か聞こえます」
「えぇ、様子を見てみましょう」
物陰から迂回先を見てみると、小さな体格をした男が、賊二人に捕まっていた。子分と思わしき賊が小さな男を羽交い締めにしており、もう一人の賊が戸惑っている。子分はほっそり体型で兄貴っぽい賊は体格がデカイ。
「アニキィ!どうしますっコイツは何も持っていないようでゲス」
「うぬーん、そうだぬ。ウヒョウヒョうるさいし、早く身ぐるみを剥いでしまうんだぬ。服でも幾らかにはなるんだぬん」
「承知したでゲス!!おらっ大人しくするでゲスよ…!」
子分に羽交い締めにされた体格の小さい男は必死で抵抗しているようだ。
「ウヒョウヒョ!! 離せ!お前ら、話が違うじゃないか!? これだから賊は…僕を怒らせたらこのゴッドブローが炸裂するぞ! シュ!シュ!シュ!ウヒョ~~~!」
なんだろう。めちゃくちゃ関わりたくない…。なんか口でシャドーボクシングの音を出してるし。最後のかけ声に至っては何なんだ。羽交い締めにされている側とは思えない。
うーん。確かあの種族は何だったかな?ルールブックを開いて見てみると特徴がある程度一致する項目があった。あれはノームだ。ノームは一般的な種族の中でも比較的小さくて、身長は成人しても人間の半分ほど。彼らの髪は森を連想させるような色鮮やかな色彩なので特徴的だ。殆どのノームは口と鼻が大きく、性格も良く言えば個性的な者が多いようだと書かれている。俺はルールブックに目を落とすことでささやかな現実逃避を強行したがあっけなくカルミアに引き戻された。
「サトル、助けよう」「まじか…」
返事を聞く間もなくカルミアは賊へ突進して子分へ剣を振り下ろそうとする。しかし、子分が気がつくとノームを盾にされたため、斬りつけることができず一旦バックステップ。後ろに飛ぶ瞬間、またカルミアの体が光る。奇襲失敗だ。こんな時でも何もできないのが悔しい。
「ウゲゲ!アニキ!敵が二人も来てしまったのでゲスよ!? しかも何か光っていて動きが速いのでゲス!きっとアイツは『クラス適正持ち』でゲス」
「まさかこんな所で出くわすとは…し、仕方ないぬん!ここは退却するぬ~ん!」
「あ!ちょっと待つでゲス!アニキィ~~」
ガタイの良い賊が、似合わないほど素早い動きでドタバタ去って行き、子分はすぐにノームを放り投げると賊の兄貴を追って行った。ノームは上手い具合に地面に着地すると、賊が逃げていった方へ「シュ!シュ!」と声を出してシャドーボクシングをしている。
「…くっ」
敵を見送ったカルミアが膝をついた。
「カルミアさん! 大丈夫ですか!」
剣を杖にして息を切らすカルミア。今はそばに寄り添うしかできない。…やはり間違いない、カルミアの力には何かしらの制約があって、無尽蔵には使えないものだ。脱出するまでの戦闘は最小限に抑えなくてはならない。
「大丈夫、問題ないわ」
カルミアが立ち上がるのを見てノームが声をかける。
「君たち、怪我はないかね?僕のゴッドブローがなければ、危うかったかもしれないね。感謝したまえよ?ウヒョ」
「いや、君は羽交い締めされていたよね?こっちが助けた側だよね?」
少しムキになって反論するが、ノームは気にすることなく話を続ける。
「僕の名前はタルッコ。君たちの脱出を手助けしてやろう。ウヒョヒョ」
なんてふてぶてしいやつだ。カルミアが助けたというのに。というよりも脱出を助けるのはどう考えてもこちらの方だ。先程の様子から見て戦力としては期待できない。放っておくとしても勝手についてくるだろうし。
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