あなたと手をつないで

雨世界

1 あるところに泣いてばかりいる女の子がいました。

 あなたと手をつないで


 登場人物


 きらり 十二歳 小学校にいっていない、いつも泣いてばかりいる女の子


 三つ葉 十六歳 亡くなったきらりのお姉ちゃんに似ている人


 プロローグ


 あるところに泣いてばかりいる女の子がいました。


 本編


 愛があるならそれでいいよ。


 きらりがその人に出会ったのは本当に偶然のことだった。

 いつものように、ふらふらとあてもなく街を歩いていたきらりは、その人とすれ違った瞬間、強い運命のようなものを感じた。

 ……似ている。とても。本当によく似ている。

 きらりは足を止めて後ろを振り返ってみた。

 もう消えてしまっているかもしれない。

 今見たあの人は私の見たただの幻想なのかもしれない。(あるいは、今が私の見ている夢の中なのかもしれない)

 そう思ってきらりが振り返ると、その人は街の風景のどこかに滲むようにして、消えてしまったりはしていなくて、ちゃんとした、しっかりとした輪郭と形を持って、あの人に似ている人は、まだ確かにその場所に立っていた。

 その人はじっと大きなビルに設置されている巨大なディスプレイを眺めていた。そのディスプレイには暗いニュースの速報が流れている。

 その人の横顔はあの人に、……いなくなったきらりのお姉ちゃんの横顔に本当にそっくりだった。

 だから、今度こそ、……お姉ちゃんがいなくなてしまう前に、きらりはその人に声をかけなければいけないと思った。

「あ、あの、すみません」

 そう思って、きらりはお姉ちゃんい似ているその人に、……三つ葉にそう声をかけた。

「え? ……あれ、私?」

 自分に声をかけてきたきらりを見て、きょろきょろと周囲の様子を観察しながら三つ葉はいう。

「はい。そうです。突然、すみません。えっと……」

 ときらりは自分が三つ葉に声をかけた理由を話そうとして言葉に詰まってしまった。

 なんて説明したらいいのか。とっさにきらりにはわからなかった。

「あれ、もしかしてナンパ? 君、おとなしい顔してるのに、ナンパとかするんだね」へーと言う感心したような顔をして三つ葉はいった。

「あ、いや、違います。えっと私は……」

 ときらりが事情を説明しようとすると、三つ葉は「わかった。いいよ。その勇気に免じて普段なら絶対についていったりしないんだけど、君の誘いに乗ってあげる。あ、でもちゃんと食事はおごってよね。君のおごり。ね、それくらいはいいよね?」

 ときらりにウインクしてから、きらりの手をとって街の中を歩き始めた。

 その行動や言動が、あまりにもお姉ちゃんとそっくりだったから、きらりはなんだか思わず、その場所で少しだけ、泣き出しそうな気持ちになった。

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