ハンカチを拾ったら子供が出来るって、ママが言ってた。

マイネ

ハンカチを拾ったら子供が出来るって、ママが言ってた。


 私の名前はアマリー。

アマリー・デール・ロレンヒ。子爵家の令嬢だ。



 実は、現代日本から異世界転生している。

転生前は平凡な女子高生だった。



 異世界転生すると、転生前の知識や経験を活かし、私TUEEE!?と、なったりだとか、



 はたまた、乙女ゲームの世界に転生しちゃってどうしましょう!?と、なったりするかと思っていたが、

 


 今のところ、どちらの気配もない。



 そして心の底から、どちらも私には無理だと思う。



 この世界に多少の不便は感じるが、何かを変えるような知識があるわけでもなく、方法もよくわからない。


 例えば、あー車欲しいなと思っても、

あー電気欲しいなと思っても、

それは…どうやって?がついてこない。

金属を…ガソリンで…。

コンセントに繋いで…あ、コンセントない。

こんな感じだ。


 一般人が異世界に行った所で、こんなものだろう。たぶん。ネット検索も当然出来ないので、己の無知無力を強く実感できる環境だ。



 そのため、お金持ち貴族の令嬢という、今の恵まれた身分を満喫し、順応し生活していた。


 些細な不満はあるものの、特に何の問題も感じていなかった。





 私は今17歳。この世界の基準だと、そろそろ結婚適齢期!というところに、差し掛かっている。

 


 現代日本の感覚をもつ私からすると、まだまだ結婚は早い…と考えてしまうので、とりあえず行儀見習いとして、王宮で働くことを希望した。



 本日はその面接(お茶会)に来ていた。

 面接はお茶を飲んで、楽しくお喋りして、解散となった。



 これで何がわかるのか、甚だ疑問であるが、受かっていたら良いなと思っている。



 終わった後、解放感を味わいながら、帰りの馬車へと向かいフラフラと歩いていた。





 すると、前を歩く文官と思しき男性が、ハンカチを落とした。




 そのまま気が付かずに、歩いて行ってしまったため、落ちているハンカチを拾い




「あのハンカチを落とされましたよ?」

 と、声をかけた。




 すると男性はバッと振り向き、驚愕の表情で見つめてきた。





え?何?これ?

拾っちゃダメだった?



それとも声をかけたらダメだった?

とても身分の高い方だった?どうしよう!?

私何かやってしまったの?

あれ?それか、私が物凄いブスでビビったとか?

いや今世の顔は、そこそこ可愛いからそれはないか!


じゃあなんで!?無言であんな驚いた顔なの!?




「…貴女のお名前は?」


「申し遅れました、アマリー・デール・ロレンヒと申します。」


「…」



文官様は黙ってしまわれた。



「あ、あの私…何か失礼をしてしまいましたでしょうか?」



恐る恐る聞いてみた。



「いや。…だが、その…責任は取ります。私はエルド・レン・ラクセンテと申します。早速ですが、入籍し結婚しましょう。」




は?



まるで状況が飲み込めない。

何言ってんのこの人?




「…あ、あの急にそのようにおっしゃられましても、私…その…困ってしまうと言いますか…」




「…もちろんです。私も正直、突然のことに困惑しています。ですが、きっちりと責任は取らせて頂くので、心配は無用です。稼ぎもありますし、爵位的にも問題はないかと。ですが、急がないといけませんね。10ヶ月しかないので。」




いや何の話!?全くわからないんだが!?



責任って何!?何の責任!?

聞いたら、余計わからないんだが!?

しかも謎の時間制限ありなの!?なんなの!?



 大混乱していたが、とりあえず1番意味のわからない「責任」について聞いてみた。



「あ、あの。責任とは何の責任でしょうか?…その…私が何かしてしまいましたか?」



「そうか。ご令嬢はご存知ないのですね。私たちの子供についての責任です。」



ファッツ!?子供!?なに!?何?この人!?

頭おかしい人なの!?めちゃくちゃ頭良さそうなのに、何言ってんのこの人!?




そして文官様はさらに続けた。



「偶然とはいえ、子は授かり物だと言いますし、私たちに子が出来たのも嬉しく思います。もちろん貴女と子供に、不自由な暮らしはさせないので、ご安心ください。それに男の子でも女の子でも、私は歓迎します。」



え!?何!?私はすでに妊娠してる設定なの!?

授かってる設定!?嘘でしょ!?

どのタイミングで!?


まさかこの世界ではそうなの!?

正真正銘まだ清らかな乙女ですけど!?

時間制限って!10ヶ月ってそういうことなの!?



「ご令嬢はご存知ないようなので、お教え致しますが[ハンカチを異性に拾われると、子供が出来る]のです。いきなりのことで、戸惑われているかと思いますが、ご心配なく。共に立ち向かっていきましょう!」




「いや、流石にそれはねぇよ!?」



し、しまった!?心の声が!?



「ええ。この国では、その部分に関して、書籍化や教育はもちろん、話題に上げることすら恥ずべき行為とされておりますから、令嬢が知らないのも、無理はないかと思います。私もコッソリ母から教えて貰っていなかったら、知らなかったでしょう。令嬢はまだお若いですし、恥ずかしく思う必要はないです。」


と、良い笑顔で言われた。



ハンカチ拾って子供が産まれてたまるか!!


コウノトリ・ハンカチバージョンか!!

諸悪の根源はママやった!!

ママー!ママのせいで、息子だいぶ残念になってるよー!!

そして、その残念な人に、無知を窘められたなう!!



全然関係ないけど、よく見るとこの残念な人、

顔カッコいいなオイ!!背も高いし、インテリメガネイケメンなのに、なんつーコウノトリマジック!!




 だが、わかった。彼が残念になってしまった理由は、彼が全部教えてくれた。




 彼のママとこの国の教育と書籍すら無い点。この3つだ。



 とりあえず彼の誤解を、解いてあげようと思う。


 私だってうら若き乙女なので恥ずかしい。

だが彼をこれ以上、残念な人にしてしまうわけにはいかない。



 子供はハンカチ拾っても出来ないことを、伝えて差し上げよう。



 そうして恥を承知で、彼に説明して差し上げた。



 すると彼は、世にも恐ろしいものをみたような顔で

「そ、そんなこと!そんなことあるはずがない!そんな恐ろしい嘘をつかないでください!」と、散々な言われ方をした。



 その後、偶然通りかかった、子持ちの彼の同僚が、私の話が事実だと肯定してくれた。



 物凄い恥ずかしい思いをしたが、彼はさらに恥ずかしそうで、大いに絶望していたので、結果的に私は、良いことをしたな。と、割り切ることにした。




……………………………




 この事件を受けて、私は教育の重要性を再認識した。


 彼のような恥ずかしい思いをする人を、減らせますように。との、願いを込めて。


 性と人体の仕組みを、理論的に書いた書籍を出版した。もちろんペンネームでコッソリとだ。



 最初は誰しもに忌避されたが、三大欲求を侮ることなかれ。異例の大ヒットを記録した。




 ちなみに、行儀見習いの試験には落ちていた。理由はよくわからない。お茶飲んで喋って帰る試験の攻略法は、未だによくわからない。



 行儀見習いになれなかったことで、程なくして結婚する必要が出てきた。



 憂鬱には思いながらも、貴族令嬢の義務である。そこで、勧められるがまま、私に求婚してくれている方に、お会いしてみた。




 そこには、エルド・レン・ラクセンテ様。あの時の文官様がいらっしゃった。




「誤解はありましたが、責任を取ると約束しました。それは抜きにしても、貴女との将来を真剣に考えて、とても幸せでした。こんな私でよければ、婚約してください。」




 と、改めて求婚してくれたのだ。




 こうして私は、行儀見習いにはなれなかったが、ピュアなインテリメガネイケメン旦那様を手に入れた。


 



 私の異世界転生はこんな感じだ。

乙女ゲームも、私ツエー!もないけれど、楽しく生活しています。

 


 


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 問題のママとの会話。


「お母様!どうして僕は生まれたの?」


「それはね、お母様がお父様のハンカチを拾ったの、そうしたら貴方が産まれてきたのよ。だからね、お父様と結婚したの。」


「へーハンカチすごいね!」



 驚愕の倒置法なのか、デキ婚なのかは、いまとなってはわかりません。

 


……………………………………………………


●後書き●


エルド・レン・ラクセンテ様・文官様


両親を早くに亡くし、幼い頃から必死に働いていたので、同世代の友達や恋人もおらず、

知る機会が一切なかったのです。社会的にも話題にするのはタブーです。


結婚式で唯一にして初めて、子供ができる過程の説明を受けます。


親がいる家庭では事前に教わったりしますが、彼は親を早くに亡くしており知らなかった。という設定です。



なので、もしアマリー嬢が転生者でなく、普通の令嬢であるifの世界線であったら、


「まぁ!?どうしましょう!?」と、2人でオロオロして「責任取ってくださいまし!」

となっていたかと思われます。



エルドさんは、アマリー嬢と結婚して、

子供の成長から、その子供の嫁入り・婿取りまで想像し、あたたかな家庭を築き、可愛い妻と子供が居る。


とっても幸せな未来をシミュレートしていました。


また、子どもの人数や性別で、何パターンもシミュレートし、

とりあえず、まずは結婚せねば!と、なったのだと思います。


 

 お読み頂き、ありがとうございました。


 

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