第2話 じいさんと復讐の始まり

 走りながら考える。

 こうなったのも全てあのカタログスペックのせいに違いない。

 リッター70キロって、書いてあったじゃねえか。

 走行メーターは、60キロしか走ってなかった。

 間に合わなかったら、メーカーのせいだ。


 へとへとになりながら、校門を通過。

 後少しだ。

 下駄箱まで後わずかというところで、靴紐が切れる。

 不吉だな。


 靴を履き替え、階段を駆け上がる。

 教室のドアを開け、中に入った。


 見回すと教室が空だ。

 くそっ間に合わなかったか。


 そんな事を考えた時に、突然、光って、白い空間に飛ばされて、目の前に老人姿の神が立っていた。


「おかしいのう、全員送ったはずじゃ。その証拠に渡す職業がもうないからの」


 まだ間に合うかもとは考えたが、甘かったようだ。


「おい、じじい状況を説明しろ」


 前は遅刻したから俺も悪かったと言ったが、今回は違う。

 強気でいかせてもらう。


「今ちょっと調べてみるわい」


 爺は空中にホログラフィのウインドウみたいなのを出すと、何やら触り始めた。

 前は調べてもくれなかった。

 運命がこれによって変わったかも知れない。


「ふむふむ、職業のくじの時に二ついっぺんに引いた者がおるようじゃ」


 知ってるよ。

 野神のがみがずるしたんだ。


「そいつは許せないな」


 怒りの演技をしようとしたが、許せない心が俺には溢れている。

 演技せずとも声に怒気が混ざった。


「その者には天罰が降りるじゃろ。そういう未来が見えた」


 おお、野神のがみに天罰が降りるのか。

 そいつは良い。


「俺はどうなる。お前のミスだ。どうにかしろ」

「そう言われても、無い物はないのじゃ。創造神様でもない限り作り出せないのう」


 ここで退き下がったら、前と同じだ。


「余り物とかそういうのは無いのかよ」

「無いのう。困った事に職業が無いとスキルが覚えられないのじゃ。スキルが無いと子供と同じじゃ。そうじゃ、神が褒美でスキルを与えてやる事はある。職業は無理だが、特例でスキルを一つ与えてしんぜよう」


 ごねてみるもんだな。

 職業がないとスキルは増えていかないが、一つでもあれば物によっては役に立つ。


「何でも良いのか?」

「無茶は駄目だぞ。心がこもってない願いは駄目だ。心底それがほしいと思っていなければならない」


 この状況を作り出したカタログスペックが憎い。

 貯金をはたいて親に借金までして買ったスクーターだったんだぜ。


「決めた。性能を書いた紙を持ってスキルを使えば、その通りの性能になるスキルをくれ」

「凄まじい願望の力じゃ。嘘を嫌う心が見えた。感心な事じゃ。ほれ」


 俺の中に光の玉が入っていった。


「じゃあな、じいさん。ありがとな」

「さらばじゃ」


 俺は石畳の上の巨大な魔法陣の上に立っていて、石畳からは冷気が伝わってくるようだ。


 目の前には祭壇があり、人の頭程の水晶玉が置いてある。

 掃除をしている神官が一人いて、突然振り返りこちらと目が合った。


「あれ、来訪者様が残っていらっしゃったのですか」

「俺は今来たばっかりだが」


「そうですか。では僭越ながら、私が鑑定の儀を執り行わせて頂きます。水晶に触れて下さい」


 俺は魔法陣から出て鑑定水晶に触ると、空中に文字が浮かび上がった。


 名前は波久礼はぐれ史郎しろうとある。

 職業は空欄だ。

 スキルはカタログスペック100%と異世界の文字で表示。

 異世界の文字も読める。

 これはスキルに関係ない。

 前もそうだった。


「む、む、無職。持っているスキルの意味分からない。私が怒られてしまう」


 前は皆と合流する方法を取ったが今回は別行動する。


「気にすんなって。貰う物を貰ったら出ていくからさ。俺の身分は野神のがみに聞いてくれ。職業を貰えなかった波久礼はぐれが遅れて来たと言ってくれれば良い。訳の分からないスキルを持っているのも付け加えろよ」


 俺は案内され地下から地上に出て、小部屋に通され待つように言われた。

 しばらくして、偉そうな太った男が鎧を着た兵士三人を引きつれ言い放つ。


「偽物の来訪者というのはお前か。今日はめでたい日だ。囚人にも恩赦が与えられる。運が良かったな」


 やった。

 野神のがみは俺の事を知らないと言ったか。

 賭けだったが、勝ったな。

 訳の分からないスキルと言われて、対決を避けたのだろう。

 弱い者には強くて、強い者には弱い、臆病なあいつらしい。


「俺は来訪者なんだって。金さえもらえれば消えてやるさ」

「ハグレなんて知らないそうだ。おい、この無職の詐欺師を城からつまみ出せ」


 両脇から兵士達に腕をつかまれ、部屋から引きずる様に出される。

 宇宙人の死体じゃないんだぞ。


「自分で歩けるって」

「離したら逃げる気だろう。この、詐欺野郎」


 腕を持っているのと反対側の手で殴られた。

 何も殴らなくても良いだろう。


 城の門を強制的にくぐらされ、蹴飛ばされた。

 俺はたたらを踏んだ。

 痛えな、この野郎。


「これに懲りたらもう来るんじゃないぞ」


 頼まれたって、二度と来るもんか。


 金は貰えなかったが、なんとかなるだろう。

 目の前には、大きな城下町が見える。

 スクーター買う為にバイトは散々やったから、何か仕事が見つかるはず。


 野神のがみを殺すのは周到に準備が要る。

 味方も必要だろう。

 それに野神のがみはまだ何もやらかしちゃいない。

 いま殺すと、魔王討伐が滅茶苦茶になる恐れがある。


 俺の要求通りだとすれば、カタログスペック100%スキルは、完全に生産職のスキルだ。

 野神のがみに現時点でも敵わないだろう。


 焦らずに、まずは金策からだ。


 俺は石畳の道を足取り軽く、真っ直ぐに歩き始めた。

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