第21話 父の半纏
大学受験に失敗し、仙台の予備校へ父と出かけた18歳の春。
入学手続きを済ませ、紹介された下宿に落ち着いた。
ゆっくりする間もなく、青森に戻る父に連れられて、一緒に夕食をと駅前の高級レストランに入る。
「なんでも頼め!」
ここは甘える場面だろうと、能天気な浪人生は気遣ったつもりで……。
「ビフテキが食いたい!」
「うまいか?」に十八歳(じふはち)の吾はただ食ひぬ 呑むだけの父の訳も知らずに(医師脳)
その時の父の懐具合を母から聞かされたのは、医者になって初給料で両親を寿司屋に招待した時だ。
ずいぶんと喜んでくれた両親の顔が思い出される。
程なく長男が授かった。
自分が親になり気づいたのは、父親と息子の会話が(母親と娘とに比べれば)実にあっさりしているということだ。
が「やはり男同士だな」と嬉しくなることも偶にはある。
十数年前に父を看取り〈老衰〉という死亡診断書を書いた。
「医者冥利に尽きる」などと自慢できるのも、親の苦労があってのことだ。
父の亡くなったのがゴールデンウィークと重なり、火葬場の都合が取れず2晩ほど棺の前で線香を絶やさぬよう息子と飲みながら過ごした。
「先に休めば」という息子の一言が、実に頼もしく嬉しかった。
亡き父の半纏みつけ羽織りたり朝の寒さに父のぬくもり
父が70歳代の頃に着た代物だ。
「ずいぶん爺臭いな」と当時は思ったが、今やジャストフィット!
二代で着たのだし、半纏も本望だろう。
更に言うなら、今は洒落者の息子だが、25年もたてば「祖父の半纏」などとありがたがって着始めるやもしれぬ。
(20221228)
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