第19話 我が『残日録』

  硬筆を筆ペンにかへ短歌(うた)詠めば筆圧つよく寄席文字たらむ(医師脳)


 藤沢周平原作のドラマ『三屋清左衛門残日録』を見て元気づけられた。


 御用人だった清左衛門が隠居暮らしのつれづれにと『残日録』をとりだす場面。

「おとうさま、残りの日々を数えるというのは……」と嫁の里江が気遣う。

「そうではない。残日録とは『日残りて昏るるに未だ遠し』という意味で名付けたものだ」と清左衛門は応じた。


 目に浮かぶのは、清左衛門が残日録をしたためる光景。

 実際には、水江風海氏(書道家)の手元吹き替えらしい。

 ……が、それにしても見事な書きぶり。

 ついつい魅せられてしまう。

 何度も見ているうち、自分で書いているような気になる。


 明治生まれの祖父が左手の巻紙を繰りながら小筆で手紙を書いていた姿を思い出す。


 そこで「我もなさむ!」と思い立ち、筆ペンで短歌を書いてみた。

 だが筆を持つのは小学生時代に通った習字教室のころ以来である。


 ボールペンの感覚で書き始めたら、何とも情けないベタッとした墨の痕。

 妻から借りた〈ぺんてる筆すき穂〉は「流麗な文字が表現しやすいよう穂先をすいて先端部のコシを弱めています」という代物だった。


 弘法大師様ならば筆を選ばぬのだろうが……。


 ユーチューブで〈筆ペン練習講座〉を探す。筆の持ち方や指と手首の動かし方をまね、縦線・横線や○などを何度も練習した。

 筆を微妙に動かすのは大変だが、ボケ防止になるはずだと頑張る。


 藤沢周平は(江戸時代の50歳代なら十分に高齢者である)清左衛門に敢えて「老いぼれるにはまだ早い」と言わせたのだ。

 コロナ禍でうつうつと暮す私たち令和の高齢者も、清左衛門を見習いたいものである。

 ――老風満帆!


(20221101)

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