第11話 医師脳(いしあたま)の杖
40代の中頃、松葉杖を突いたことがある。
大学のスキー部時代に傷めた右膝の半月板を手術してもらったときだ。
72歳の今、また〈杖〉の世話になっている。
老化した(下肢ならぬ)イシアタマには非常に重宝な補助用器具。
「医師脳の杖」と名付けた。
記憶力だけでなく、作文力も支えてくれる。
初めてマックを使ったのは、39歳でカリフォルニアに留学したとき。
基本操作は(研究室のアメリカ人スタッフ)ジムから教わった。
でも日本語ワープロソフトだけは試行錯誤を重ねるほかない。
漢字の誤変換で噴き出すたび、ジムは怪訝そうに振り向く。
私の英語力では理解してもらえず笑いでごまかした。
パソコンとの付き合いは30年以上。
……と言っても最初の頃は(モニター画面が小さすぎて)パソコン上で作文することは無理だった。
だからパソコンを使ったといっても(あらかじめ手書きで作文した原稿を清書するだけだから)作文する思考過程に変化はない。
モニター画面が大きくなり原稿用紙が2枚以上も見渡せると、作文の思考過程も変わった。
メモ程度の下書き(プロット)をもとに、パソコン入力しながら画面上で推敲を始める。
そんな風に文章の途中からでも打ち始めて繋ぎ合わせる癖がついてしまうと(原稿用紙の升目を埋めた時代のように)あらかじめ文章を考え最初から書き始めることが難しくなった。
葉書を書く前に、パソコンで打ってみたり……。
パソコンは〈医師脳の杖〉である。
もはや手放すことはできない。
モニター画面を見ながら両手の指を動かす作文は、爺医の脳にとって良い刺激になっているはずだ。
そんな自信作だが(月刊弘前を読んだ)妻の批評やいかに?
○推敲し洒落きかせしつもりのエッセーも妻にはうけず寂しき夕餉
(20200901)
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