ようこそ『シュタイン王国職業案内所』へ!

黒い猫

魔法学校新卒 シェル・ザックの場合

第1話


 そこには海があり、緑が豊かなその国は『シュタイン王国』と言い「魔法」というモノも存在していた。


 そして、実はこの国には他の国にない『職業案内所』という場所があった――。


「ふぅ」


 ここは基本的に名前の通り「職業を案内する」のが仕事で、ここに来る人は大体の場合が「新しい仕事を探しに来る」のが目的である。


 そんな中『アイリン・シュベル』は王国の役所などが集まる中に少し古びた建物の前で掃き掃除をしていた。


「……」


 ただそこには目に見えて『職業案内所』と分かる看板はない。


 それでも、この国に住んでいる人であれば、別に看板がなくても大体みんな知っている。


 人づてで聞いた話によると「就職に悩んだらここに相談するべし」って言われているくらいだ。


 ただ、こうしてちゃんと認識されているのであれば「あいつ」の思惑通り……という事になるのだろうか。


「……」


 そんな事をふと考えると……なぜか無性にイラッとした。


 経緯はともかく、仕事を紹介した上でその仕事が続き、キチンとお金をもらっているのなら……それはとても良い事ではないだろうか。


 ただ、コレを提案してきた「相手」にアイリンがムカついているだけで。


「……おっと」


 ちょうど始業を知らせるチャイムが鳴り、アイリンはいそいそと中へと入って行った――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「……ここ?」


 見上げた建物は……少し古びている様に見えるが、普通のお店の様に看板などが特にない。


 しかし『シェル・ザック』が場所を確認している間にもたくさんの人々が出入りをしている。


 そこでシェルは「これだけ人の出入りがあるという事は……きっと間違いないのだろう」と考え、「よし」と意気込んで建物へと入ると……。


「!」


 驚いた事にその建物の中には、シェルが思っていたよりも人の多くいた。


 外で見ている時は「結構人の出入りが激しい」とは思っていたが……まさか中にここまでたくさんの人がいるとは思っていなかった。


 しかもよく見ると、そのほとんどの人が男女問わずシェルと同じくらいの年齢の人たちである。


「……」


 ただ建物に入ったは良いモノの、この後どうすればいいのか分からず、シェルは入ってきた場所で辺りをキョロキョロと見ていると……。


「こんにちは」


 穏やかな口調とにこやかな笑顔の一人の女性が声をかけてきた。


「こっ、こんにちは」

「本日はどういったご用件でしょうか」

「あ、えと。初めて来たんですけど」


 素直にそう言うと、女性は「かしこまりました。それではまずこちらの用紙に必要事項をご記入して頂きます」と言ってすぐに紙とペンが置かれているテーブルへとシェルを案内した。


「ご記入がすみましたら、そちらの紙を持ってあちらの方で『測定』の方をお願い致します」


 女性は『測定』と言いながら大きな球体を指す。


「わっ、分かりました」


 シェルは女性の『測定』の言葉を聞き思わず身構えた。なぜなら、彼女がここを訪れた理由がまさしく「それ」が関係していたからだ。


 しかも「簡単に経歴をお書き下さい」と紙には書いてあるという事はつまり、この箇所には学校名は書かなければならないだろう。


「……」


 正直色々と思うところはあるものの、シェルは記入事項をサッサと書き終え早速『測定』が出来るという「球体」の前に立った。


「?」


 その「球体」の前には「軽く両手をかざし、測定後出て来た紙を取りイスにかけてお待ち下さい」とだけ書かれている。


「こ、こう?」


 シェルがいた学校でも『測定』は毎年の様に行われていたが、いつも誰か教師がいた上に、一人ずつ前に出てやらなければいけなかった。


 正直な話。実はそれがシェルは大の苦手だった。何せ測定の結果がその場にいる全員に知られてしまう形だったのだから。


「……」


 しかし、シェルが『測定』をしている間もその結果をチラッと見ていく様な人はおらず、みんな自分の事にのみ集中している様子だった。


「あ」


 そうして両手をかざして測定はモノの数分で終わり、球体の下から出て来たのは……測定の結果ではなく、ただ番号が書かれただけの紙。


「?」


 シェルはそれを不思議そうに眺めていたが……。


「十五番でお待ちの方!」

「なるほどね」


 どうやら、この紙に書かれている番号を呼ばれるらしい。


「……」


 そして、たった今呼ばれたのは十五番の人。そしてシェルは出て来た紙を確認すると、そこには「三十五番」と書かれている。


「こちらへどうぞ!」


 大きな声で女性は手を上げながら十五番の人を自分の前へと誘導している。どうやら呼ばれた人は『受付』と書かれたところで相談をする様だ。


「……」


 シェルはちょうど空いているイスに腰掛けながら周囲を見渡すと、今のところ「受付」は四つ使用中で一つは……休憩中なのだろうか空いている。


 そして、その横には資料室だろうか。何やら部屋に続く扉がある。


「次の番号でお待ちの方。十六番の方!」


 そしてあっという間に次の番号の人が呼ばれるのを見る限り、一人当たりあまり時間かからなそうだ……とこの時は思っていた。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 しかし、どうやらシェルが測定をしてすぐに呼ばれた人はは簡単な手続きの話だけだったらしく、本当は時間がかかってしまうモノらしい。


 でも、それも仕方のない話だろう。


 なぜなら今受付で相談をしている人たちは私と同じくらいの年の人たち。つまり、今年学校を卒業して就職する人たちだろうから。


「……」


 そうして辺りを観察しながら待っていると、シェルは「あの部屋も使うんだ」と通常の受付ほどの人数ではないモノの、一人だけあの部屋に案内されているのが目に入った。


「お待たせしました! 三十五番の方!」

「はい。ん……?」


 シェルは返事をしながら立ち上がると、そこには「あの部屋」の扉を開けてシェルに向かって手招きをしている女性の姿に気がついた。


 他の受付が空いていない上に扉を開けてシェルを呼んでいるところを見ると、自分はそこに行かないといけないのだろう。


「……」


 しかし、なぜそこに呼ばれていたのかは分からず、シェルは疑問に思いながらも部屋へと入って行った――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「こんにちは」

「……こんにちは」

「あ、どうぞかけて」

「はい」


 部屋に入ると、女性に促されるがままシェルは目の前のイスに座った。


「お待たせしてごめんなさいね」

「いえ」


 人なつっこそうな笑顔と共に穏やかな雰囲気をまとっている……その女性を見ながらシェルは目の前の女性の事を観察していた。

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