第14話

私は今馬車に揺られている。ルイ様とオスカー様と。


「で、ルイ様。何故私の馬車に乗り込んでいるのですか」


私は不機嫌な様子を出しつつ質問をする。


「僕はルイ、呼び捨てだよ。ソフィ、貴族とバレちゃうと不味いからね。彼はオスカーで」


「何故、平民の幌馬車に乗っているのよ。私は頼んでいないわ。そして私は今ゾエと名乗っているのよ。治療師ゾエ。忘れないで」


私の気持ちを知ってか知らずかルイは和かに話をし始めた。


「陛下はようやく僕の武者修行を許可してくれたんだ。でも、出る条件として治療師のゾエと一緒に行動する事なんだよね。一応、王族だからさ、怪我して死なれると困ると思うんだよ」


「この間、死にかけてたじゃない。それに教会に行けば治療師なんて沢山いるわよ。私で無くてもいいはずだわ」


「もう、旅は始まったんだし気にしない。長い付き合いになると思う。これから宜しくね。ところで、次の村はサランの村かい?サランまで馬車で丸1日だから野宿になるのか」


「ルイ様は野宿をした事は有りますか?」


「ルイだ。何度か野営はある」


ルイはきっと1人では何も出来なさそうな気がする。オスカーさんがなんとかしてくれるはずよね。




 夕方になり、早めに馬車を止めて結界杭を馬車周りに打ち込む。さて、料理よね。火を起こし、鍋に干し肉と野菜のスープを作る。


オスカーさんとルイにパンと出来立てスープをよそって渡す。


「ゾエは料理が出来るのか。美味しいな」


どうやらオスカーさんもルイもこの味を気に入ってくれた様子。お代わりをして食べていたわ。


食後は清浄魔法を掛けて馬車内で寝る準備をする。やっぱり王族のルイは馬車で寝るのよね。


「ルイとオスカーさんはこの馬車でどうぞ」


「ゾエはどうするんだ」


「私?私は此処で結界を張って寝るわ」


「それは駄目だ。ゾエが馬車で寝ればいい」


「ではオスカーさんとルイは馬車の前半分で。私は後半分を使って寝るわ。それで良いわよね」


「ゾエ。私は寝ずの番をするのでルイと先に寝て下さい」


オスカーさん。仕事のし過ぎだわ。


 私はオスカーさんに治癒魔法を掛けてから馬車の中に入る。仕切り棚や荷物を真ん中よりやや私の方に寄せる。


何故私の方が狭いのかって?


それはこっそり魔法で空間を歪ませて広くするからさ!


多少のスペースであれば少ない魔力で済むので便利なのよね。


「ゾエ。そっちの方が狭くないか?変わるぞ?」


心配したルイがこちらに顔を出す。


「ルイのエッチ。覗かないで」


「お、おお。すまんすまん」


彼は焦った様子ですぐに顔を引っ込めたわ。ふう、こっちの方が広いとバレる所だった。私はお気に入りのふかふかロングクッションを敷き寝に入る。


ルイ、オスカーさんおやすみなさい。


朝早く目覚めたらオスカーさんは焚き火のそばで寝ずの番をしていた。真面目だわ。


「オスカーさん、馬車の私のスペースを使って寝て下さい。交代の時間です。私が後は村まで馬車を進めるので、ご飯を食べてゆっくりして下さいね」


そう言って荷台から持ってきたパンと昨日の残りのスープを火魔法で温め直して渡す。オスカーさんは私の魔法を見入っていたが、私はパンとスープを持たせて彼を馬車の中に押し込んだ。


 歪ませてある空間部分は揺れないからゆっくり寝れるわ。私はそのまま結界杭を抜いて馬車を走らせる。


 ルイは長旅で疲れているのか目を覚ます様子はない。貴族の朝は遅いから当然と言えば当然だが。


馬車をのんびり走らせる事数時間。ようやくルイが起きたみたい。私はパンを渡してルイに清浄魔法をかける。


「ルイ、おはよう。よく寝てたね」


「ゾエ。おはよう」


ルイはそう言うと私の隣に座り、パンを食べ始める。コップには自分の魔法で水を入れて飲んでいる。


「ルイ。お昼にはサランの村に到着するわ。ルイ達は村で何をするの」


「そうだね。まず、ギルドへ寄って討伐依頼をこなすかな。ゾエはどうするの」


「私は教会に話を通してから馬車前で治療を行う予定よ」


ルイは今日の予定を確認した後、オスカーの様子が気になったようだ。


「オスカーは寝ているんだな」


「ええ。今はゆっくり寝かせてあげないとね」


「聞いていいか。ゾエは今までどんな生活を送っていたんだ」


ルイは真面目な顔で聞いてきた。


「私は朝起きてパンを食べながら治療して夕方早くに店じまいしてご飯を食べに行く生活をしていたわよ?」


「いや、治療師として働く前の生活だ」


「んー。自室で本を読んでご飯を食べる位だったかな」


「本を読むのと食事しかしていなかったのか?」


「ええ。私は外に出すのが恥ずかしい存在だったからよ。それだけ。ほらっ。魔物が出てきたわ」


ルイは詳しく聞きたそうだったが、丁度魔物が現れ、馬車を止める。


さて、私が退治すべきかと思っていたらルイが魔法を練り上げ、炎で魔物を焼き上げる。一瞬だったわ。流石、攻撃特化の王族は強いわ。


「ゾエ、終わったぞ。オスカー、まだ寝てろよ。こんな魔物すぐだから」


振り向くとオスカーさんが臨戦態勢を取っていた。


……流石騎士様格好良いわ。

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