🏥 虚構 エイチ病院 👨‍⚕️

医師脳

虚構  エ イ チ 病 院

  「小説はなんでもあり」との言あれば書かむと思ふ老いの繰り言(医師脳)


 むかし、あるところに、エイチという病院があった。


〔筆者注:エイチの由来を聞かれても困るが、星新一のショートショート風に、ホスピタルのイニシャルを借用しただけのことであり、深い意味はない〕――。


 と、ここまで書いて筆が止まった。


〔くどいが筆者注:パソコンを打っているので、実際に筆を握っているわけではない〕――。


 困ったときは専門家に頼ろう。

『創作の極意と掟』のなかで筒井康隆センセはおっしゃる。


「濫觴(らんしょう)というのは、小説に於いて言うなら冒頭、つまり書き出しのことである。小説の書き出しについては、過去の小説作法にさまざまなことが書かれている。最初の一行で物語の物語の中に読者を引き込まなければいけないだの、あまり気負って書き出すとあとが続くかなくなって腰砕けになるから、肩ひじ張らぬあっさりした書き出しのほうがいいだの、中味をあらわす象徴的な書き出しにすべきだの、いきなり主人公の名前を出して登場させるのは非文学的だの、その他、その他である……」と、長いので中略。


「さて、そこで結論としては。作品の冒頭は個個の作品に最も相応しいものであるべきであり、それがいい書き出しかどうかは作品全体のでき次第で決定される、ということになる。逆に、名作とされる作品の冒頭部分を読めば、その作品はそう書き出すしかなかったのだと思わせてしまうからなのだ」と、あっさり肩透かしを食らわされる。


「ならば」と、肩ひじ張らずに書き出してみよう。


     *


「むかしむかし……」

 と言っても、そんなに古くはない。昭和の末か平成の初め頃だろう。


「あるところに……」

 と(誤解や祟りが起きないよう)一応ボカシてはあるが、みちのくの城下町らしい。


 その町に、本編の主人公〈エイチ病院〉はある。


 かつて、みちのく医務局から初度巡視にきた年配の局長は、病院の建物を見て呟いた。

「昔の療養所だねぇ」と、懐かしの名画『愛染かつら』を連想したのだろう。

 知る人ぞ知る話だが、当時は撮影スポットを見物にくるファンが絶えなかったとか……。


 その〈エイチ病院〉に噂話が流れた。

 夜な夜な語りだすというのである。

 もともと衛戍(えいじゅ)病院として明治時代に発足した施設だから、その手の噂が起きても不思議はないだろう。


 真偽は別として……。

「こんな話を聞いた」という話を聞いた人が語った話を聞いた人から聞いた話だが……。

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