おはよう!おひさま⭐︎

ニ光 美徳

第1話 幼稚園がコワイ

 ボクは朝、お部屋に入れない。


 お部屋に入れないどころか、幼稚園の玄関からもう中に入れないんだ。

 おうちから出たくないことだってある。


 ボクは乗り物が好きだから、幼稚園に入る前は黄色い幼稚園バスを見て、とっても乗りたいと思ってたんだ。

 ママにいっつもそれを言ってたら、ボクが年少で入園したとき、幼稚園バスで通うことにしてくれた。


 ボクはてっきりママと一緒にバスに乗れると思ってたから、すごく嬉しかった。でもすぐに気付いた。

 バスにはボク一人で乗らなきゃいけないんだってー。



 朝バスが迎えに来る。ボクはすごくドキドキする。


 先生がバスから降りてきて「ご挨拶どうぞ」って言う。

 でもボクは先生に“せんせい、おはようございます”も言えない、ペコリもできない。だって全然幼稚園に行きたくないもん。ママと離れたくないんだ。


 ボクはママにしがみつく。全力でしがみついて泣く。大泣きしたってペリッと引き剥がされる。


 ボクはバスの中からママを呼ぶけど、ママはちょっと困った顔して、でも笑ってバイバイする。


 ボクはとっても不安なんだ。もう二度とママに会えないんじゃないかって思う。

 しばらく涙が止まらない。


 最初は先生が抱っこしてくれるけど、すぐ次のお友達の家に着くから、椅子に座らされる。

 ボクはそれも嫌なんだ。ずっと抱っこしていてほしい。でもしてくれない。


 そして幼稚園に着く。いっぱいの荷物を自分で持って歩いていかなきゃいけないんだけど、できない。


 バスを降りた後、玄関にも入れない。


 玄関に着くと、大きい子さんたちがいっぱい走り回ってる。廊下だって階段だっていっぱい。すごくコワイ。


 先生に手をつないてもらって、なんとかお部屋まで行っても、そこにもまたお友達がいっぱいいる。


 お友達は「おはよう」って言ってくれるけど、ボクは言葉が出てこない。


 お友達もコワイ。


 朝の会が始まる。

 先生を囲んで輪になって歌うんだけど、歌えないし踊れない。そもそも輪の中に入れない。

 ボクはお部屋の端っこで、お友達が楽しそうにしてる姿を見る。

 それがボクの精一杯ー。



 幼稚園に入ったら、初めてのことばかり。

 皆に合わせて行動しなきゃいけないし、お約束もある。毎日何かの練習させられて、“行事”もしなきゃいけない。


 先生はコワイ顔するし、“行事”は皆のパパママが来るから、もっといっぱいの人になる。何してるのか全然分からないし、全部がコワイ。


 給食の時間、それも嫌な時間。

 お友達と一緒に食べるのは嫌なんだ。ボクは一人がいい。お友達が近くにいるとドキドキして食べられない。


 でも先生だけは大丈夫。だってママの代わりだから。

 先生の隣に座れないときは、ボクだけ遠くの机で食べることもある。近くに誰もいないと安心する。


 でもいつだったか、いつもは来ないママが幼稚園まで迎えに来てくれたことがあるんだ。

 その時先生が「お伝えしなきゃいけないことがあります。今日実は、一人で廊下でご飯を食べたんです。お部屋で食べるのを嫌がって、本人の希望だったんですが…、すみません。」ってママに言ってた。


 ママはびっくりしてたけど、ボクには何も言わなかった。別に廊下で食べたって、よかったんだよね?


 ママが迎えに来なくても、ご飯を食べたらちょっと不安が小さくなる。もうちょっと遊んだら、バスに乗っておうちに帰れる。

 帰りのバスは全然嫌じゃない。おうちの前でママが待ってくれてるから。

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