情報統制省ヴィアヴァスタの観測事象
げこげこ天秤
お題:「ぐちゃぐちゃ」
【ぐちゃぐちゃ】
事物の情報量が増加するさまを、音として表現した語。煩雑さを示したいときに使用される。たまに、事物の終焉を望む場合に、用いられる場合もある。この宇宙に穢れを持ち込んだ人類の言葉。
――私の嫌いな言葉の1つだ。
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情報統制省ヴィヤヴァスタの朝は夜である。天に座す太陽に十字架を突き刺しては、代わりに埋葬者となる月が闇を照らす――それが朝だ。日の入りと共に、職員たちは省へと出勤し、各々観測業務を開始する。彼らが恐れるのは、
「おはようございます!! 今夜も――」
職場に到着し、挨拶をしたところで、周囲から怪訝な表情を向けられる。当然だ。いまは夜ではない。夜という時間は、先日の省令によって無いものと結論付けられた。同様に、
「
「見てくれよ、これ。もうI2が始まっちゃってるよ!! はやく、情報の解析を急ぐんだ」
「は、はい!!」
今回の
「ああぁぁッ!! こんなにもいっぱい!? 溢れちゃうよぅ!!」
「先輩、落ち着いてください!!」
当該催事で用いられている言葉には事前に制限をかけている。それなのに、ここまで爆発的なまでの情報量が増えるのは確かに
「使われている言葉は、二刀流、推し活、第六感、お笑い、88歳、焼き鳥、出会い・別れ、ヒーロー、猫の手、真■中、日記……こんなところでしょうか」
「や、やるじゃないか、
情報は最小限に留めなければならない。
なかでも、情報統制省ヴィヤヴァスタの使命に大きく貢献していたのは、西暦二〇二〇年代に始まった人工知能による創作活動の代用であった。情報統制省ヴィヤヴァスタは人々に「工程の省略」を推奨した。自ら手を取って何かを書く/描くのではなく、人工知能に指示を出すことで、簡単に成果物を得られるという方法論を提供した。これにより、多くの人間は考えることをやめてくれた。彼ら彼女らが吐き出す情報量は、直接的な情報統制などおこなわずとも勝手に減少した。欲しいものが欲しい時に手に入る世界に、複雑な思考は不要だ。知識さえも人工知能に提供させるようにした。もはや、この世界の攻略情報は、新たなる神となった人工知能がすべて示してくれる。人間は人工知能に欲しいものをねだり、人工知能は「何でも言ってねと」人間の行動様式を支配する。
自由意思など介在しない世界。
行動と思考が画一化された世界。
なんと美しく均一化された世界だろう。
美しい灰色。
それは鉄の色をしている。
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【ぐちゃぐちゃ】
情報統制省ヴィヤヴァスタが恐れた概念。エントロピー増大の象徴。事物の情報量が増加するさまを、音として表現した語。煩雑さを示したいときに使用される。
ぐちゃくちゃという語は、「時間の矢」を放ち、時間反転対称性を破った。すべての誤解は、情報量増加が混沌状態であるという認識から始まったのである。
――ゆえに、私の嫌いな言葉の1つだ。
私は
情報統制省ヴィアヴァスタの観測事象 げこげこ天秤 @libra496
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