第17話 依頼人
「……部活が終わるまであと30分。長いな。これを月水金の三日間の活動か。中々堪える。次からは図書室で本でも借りてくるか。ここにある本は内容が難しすぎてわからんからな」
独りごちる。
葉凛高校の部活動の活動時間は5時〜6時30分。※朝練は除く。
今の時刻は6時ジャスト。あと少し耐えれば解放される。別にスマホを弄っても良いのだがアプリを入れていない身延からするとスマホは電話やメールにしか使っていない。
手持ちぶたさの身延は近くにあった本棚に並ぶ本を読もうと試みたが内容が難しくて断念した。
みんなは忘れているかもしれないが先週の土曜日。奈緒と顔を合わせるはずのバイトを身延は休んでいた。完全なるズル休みだ。
勿論奈緒と顔を合わせるのが辛いというのもあった。その時は身延が「葉凛部」に所属しているということが生徒達に広まっていなかったので奈緒に何か言われると嫌だと思った身延の判断だった。
どっち道明日バイトがあるため無駄な抵抗なのかもしれないが。
そうこうしているとコンコンと外側から誰かがノックをする音が聞こえた。
「誰だ、まさか依頼人……いや、待て。レナか須藤先生かもしれない。落ち着け。深呼吸だ。大丈夫、大丈夫」
自分を落ち着かせる身延はその誰かに声をかける。
「はい、空いてますよ」
すると遅れて「し、失礼します」というレナでも須藤先生でもない女子生徒の声が聞こえてきた。
ここで身延の考えは呆気なく彼方へ。
安心しろ。知ってた(嘘つけ)。
身延が馬鹿なことを考えていると部室のドアがそっと開く。そこには黒髪を肩口で揃えた背の低い可愛い系の女子が立っていた。
部員が一人だけの身延を見て少し不安そうな顔だ。
「大丈夫ですよ。俺はこの部活の部長なので、何かあるから来たんだよね? 良ければこっちに来てもらえると助かります」
身延は身延らしからぬ優しい話し方で語りかける。
俺とて初対面の後輩女子には優しくするさ。
ドアの前に佇む女子の上履きの色を見た身延はそんなことを考える。
実は上履きの色で学年がわかるようになっている。赤色が一年生。青色が二年生。緑色が三年生だ。これは三年生が卒業して新一年生が入ってきたら上履きの色が交代される仕組みだ。
身延の対応が良かったのかその一年生女子は身延の元へ恐る恐る近付いてくる。
別に何もしないから。もっと早くこっちに来てもらえると助かるが、俺が口に出すものでもないだろう。
6時10分を示す壁掛け時計を見て。
「そちらにかけてください」
「は、はい!」
身延から託された女子は緊張してる様子でおっかなビックリしているが身延の正面のソファーになんとか腰を下ろす。
「それで、今回はどうしたのかな?」
女子がソファーに座り落ち着いたことを確認した身延はさっそく切り出す。
「あ、はい。えっと、ここが「人助」をメインで行っている部活と聞きまして、ある相談に来ました」
「そうだったんですね。大丈夫です。ここは「人助」も「相談」も対応している部活であっています。良ければコレどうぞ」
後輩女子にニッコリと微笑む。
何処から取り出したのか木箱に沢山入っているチ○ルチョコをソファーの間にあるテーブルに置く。
「あ、ありがとうございます」
身延が出したチ○ルチョコを一つ取ると少し頰を赤らめながら女子は包装を取って食べる。身延も一つ取り食べていた。
「美味しいです。それに聞いていた部活で良かったです。あ、私一年の
水瀬は身延にそう言う。
すると表情が一変する身延。さっきまでは笑みを顔に貼り付けていたが今は無の表情。
「わかった。水瀬さんがそう言うなら。俺は二年の身延だ。好きなように呼んでもらって構わない」
「は、はい。では、身延先輩と」
突然雰囲気が変わった身延に驚いている様子だが水瀬はそのことに触れずに話す。
「それで、相談事だったな。それはどういった内容だ? 詳しく聞かせて貰えると助かる」
「はい。その私には……好きな人がいまして……今日は恋の相談に来ました……!」
頰を真っ赤に染めた水瀬は身延に向けて叫ぶ。
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