第13話 先輩と後輩



「聞いたわよ身延君。部活の件」

「え? なんのことですか?」

「しらばっくれないの。須藤先生からも話は聞いてるわ。どうする? 私の一声で君の待遇は変わるけど……私に頼るなら今よ?」

「誰がそんなこと」


 人に頼りたくない身延。

 無償の善行ほど怖いものはないと思っていた。なので詩乃に対してあからさまに嫌そうな顔を作る。


「規則に従わず部活動を行わなかったことは罪よ?」

「それは反省してます。ただしそれでアンタ達が学校側に言及して何か処罰があるのならこちら側も考えます」


 身延は真顔でそんなことを口にする。

 詩乃は身延の言葉に目を見張る。


「……私が、許さないわ」

「アンタになんの権限があるんだよ。ストーカーか……」

「そうかもしれないわね」

「否定しろよ」


 詩乃の本気か嘘かわからない言葉に翻弄される。

 詩乃の相手をしていても時間の無駄だと思った身延は話を切り上げる。


「心配はしてないですけどね。俺は優秀な相棒がいる。だから俺は待つだけ」

「……相棒、君に?」

「あぁ、アンタよりな人物がな」

「……聞き捨てならない言葉ね。私よりも、この私よりも君の相棒とやらは優秀だと?」


 詩乃の雰囲気が少し変わる。

 それでも身延は顔色一つ変えない。


「そう言ってる。だから部活動の件はなんも気にしてない」


 これはブラフだ。

 本当にレナが部活動の件をどうにか出来るかなど今の段階で確証などない。

 でも今は少しでも相手を動揺させて欺く手段が欲しかった。


「……良いわ。ただし、その相棒さんが君を救えなかったらどっち道私に助けを求めることになる。だから今は静観させて頂くわ」

「期待しないでいるよ」


 馬鹿にしたように返す身延に余裕を取り戻した詩乃は笑みを見せる。

 その時詩乃は何かを思い出したのか悪い笑みを作る。


「そうだ身延君。私がどうして保健室にいるのか気にならない?」

「別に」

「本当は?」

「どうでも」

「……」


 身延に否定された詩乃は隣のベッドにあったまくらを取ってくると身延をポスポスと無言で叩く。


「……あぁ! 鬱陶しい! なんだよ、わかったよ。聞けばいいんだろ? それで?」

「そう。身延君はそんなに聞きたいんだ〜どうしようかなぁ〜?」

「……」


 うざい。そう思ったが今は落ち着け。そうだ、どうせここでまた俺が何かを言えばこの女は調子に乗りめんどくさくなる。


「男の子の身延君に言うのもなぁ〜それに見るからに初心な身延君じゃ赤面しちゃうかなぁ〜?」

「……」


 はよ言えや。彼女も一応いるから初心じゃないわ。とか言ってやりたい。言ってやりたい。が……我慢だ。


「よし、ならこの大人の女性である詩乃お姉さんが初心な身延君に教えてあげよう。刺激が強すぎて興奮しちゃダメだぞ?」


 お姉さんぶっているのかわざと腰に手を置くと茶目っ気を出す。


「わかりましたよ。それでなんなんですか?」

「よく聞いてくれた! さては身延君も興味深々だったね?」

「そっすね。もう興味津々でいてもたってもいられません(ある意味)」

「うんうん。ならば教えてあげよう。実は私は……今日、整理なのよ!」

「……」


 その話を聞いた身延は一瞬フリーズしたが、話の内容を理解すると馬鹿らしくなってきたのか額に左手を押し付ける。

 ただその身延の態度を何かと勘違いした詩乃は余裕の表情だ。


「やっぱり身延君じゃまだ早かったようね。やっぱり大人の私レベルじゃないと……」

「アンタ馬鹿か」

「え?」


 身延が初心だと思った詩乃は目を瞑り身延にわかりやすく説明しようとした。

 だが聞こえてきたのは身延からの少しキツい言葉だった。

 身延の顔は少し苛ついたような顔をしていた。


「アンタが馬鹿だって言ってんだよ」

「なっ!? 私は頭が良いわ! そんな私に……」

「それが馬鹿だって言ってんだよ。今は頭の良し悪しを言ってるんじゃない。に考えて馬鹿だって言ってんだ」

「……あ、その……」


 頭が切れる詩乃は身延の言いたいことが理解出来た。

 自分の失態にようやく気付く。

 少しでも身延に良いところを見せたかった詩乃は暴走していた。

 そして言わなくても良いことをつい口走っていた。今更になって恥ずかしくなった詩乃は言葉に詰まる。


「あのなぁ。俺が言うのもアレだが……整理? それって女性の大事な日なんだろ? 辛いんだろ? 俺じゃあどの程度の痛みとか辛さとかわからないけど……デリケートな問題だろ。そんなの男の俺の前で軽々しく話すな」

「ごめんなさい」


 そこには葉凛高校の生徒会長の姿はなくしゅんとしてしまったただの女生徒がいた。


「わかってんなら俺からはそんなに強く言うつもりはないが、自分をもっと大切にしろ」

「後輩の癖に生意気……」


 恥ずかしさのあまりか赤くなっていた自分の顔を手に持っていたまくらで隠しす詩乃。

 チラッとまくらから顔を半分出すと覇気のない言葉を漏らす。


「今は先輩も後輩も関係ないだろ。それよりも自分の状況が分かったならほら、大人しく寝てろ。他の生徒会の連中に迷惑かけたくないんだろ」


 詩乃に言い聞かせながらも立ち上がっていた身延は詩乃に近付く。肩を押して隣のベッドへ誘導する。

 詩乃は詩乃で特に抵抗はしなかった。


「……その、身延君は……体調が悪いから保健室にいるんじゃないの?」


 身延の誘導の元ベットに座った詩乃は聞く。


「俺のはちょっとした体調不良だ。それにもう治った。アンタはまだ安静にしてろ。俺から先生には言っとく」

「……ありがとう」

「初めからそうやってしおらしくしてろっての」

「何よカッコつけちゃって、馬鹿」

「ハイハイ」


 身延の指示に従った詩乃はベットに横になって布団を自分の顔付近まで持ってくると身延の悪態をつく。

 身延はそんな詩乃には取り合わない。


  身延はそれ以上何も言うことはなく保健室を後にする。

 その様子を見ていた詩乃が壁掛け時計を見ると四時間目が始まる時刻だった。


「……身延君、計算してやってたのかしら? なんか、むかつく……」


 自分より偉そうにしていた後輩な顔を思い出した詩乃は布団を頭まで被る。





「……んん、ん。私は……」


 寝ていた詩乃は目を覚ます。

 起き上がると寝ていた前の記憶を思い浮かべる。

 その時シャッとカーテンを開けられる。


「四ノ宮さん起きたのね。もう四時間目も終わりそうだから丁度良かったわ」


 女性の保健室の先生は詩乃の声が聞こえたからかカーテンを静かに開けると詩乃に伝える。


「はい、ありがとうございます」

「そうだ、四ノ宮さんは体調どう?」

「先程よりは良くなりました」

「そう、なら良かったわ。あと、これ」

「あ、ありがとうございます。スポーツドリンク……」


 先生からスポーツドリンクのペットボトルを受け取った詩乃はお礼を言う。


「良いのよ。それにそれ。身延君が四ノ宮さんに渡しといてって」

「身延君が……」


 手に持つペットボトルを凝視する。


「やっぱり四ノ宮さんは生徒会長だからのね」

「そう、ですね」


 先生の言葉を否定することなく詩乃は笑みを見せた。そのペットボトルを胸に強く抱いて。


 借りを借りっぱなしなのは性に合わないのよね。


 



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