冷徹なる論理

宴会は、残念ながらかなり盛り上がった。

変人ぞろいの我がパーティは、話題性だけはある。


モールは、さすがは、元勇者に変人伯爵、迷宮研究家のパーティですと、感心して見せたが、モールたち「蛙が冠を被るとき」も、四人組なのにそろって姿を見せたことのない、謎多きパーティと言われていたのだ。


酔いが回った列席者が、オルフェに絡み始め、ついに剣の柄に手をかけたところで、ギルドマスターが止めに入って、会はそのままお開きとなった。


「オルフェ、モール。表に馬車をまたせてある。今晩はこのまま、わたしの屋敷にこい。」


レティシアは、てきぱきと2人に指示をした。


「サリアも、だ。

ルーク殿下の屋敷に馬車を回しておく。

話がすんだらそれで、わたしのところに来るんだ。」


「な、なんで。」

わたしは、戸惑った。


「次期公爵閣下のお話の内容をはやく伺いたいからに決まっているだろう?」


レティシアは、しれっと笑ったが、目の光は冷たかった。


「どうも、このパーティの結成には裏があるようだな。」


わたしは息をのんだ。

伯爵閣下は、変わり者だが無能ではない。

オルフェの招待にのるように、わたしにすすめたのは、確かにルーク、追放された“狼と踊る”の元斥候。そして次期パレス公爵閣下だ。

その後のことも、わたしは、彼に報告をあげている。


「すべてに、絡んでいるのが、次期公爵閣下だとしてもわたしは、驚かないがなあ。」


レティシアの瞳はこんなとき、鋼鉄の青銀色を帯びる。玉鋼を叩いて叩いて靱性を高め、祝福と呪いを幾重にも施した名剣のかがやき。



「はっきり言うとだな。」

と、女伯爵は続けた。

「あまりにも、急速に頭角を表したルーク殿下に反発をいだき、これを引きずり下ろそうとする一派もある。

例えば、わたしだ。」



「レティシア!」


「決まってるだろうが。うちの伯爵家は、元々王太子の派閥だ。」


つらつらと、レティシアは言った。わたしの抗議等、歯牙にもかけない。

蛙型の魔物に水流で攻撃したときのようだった。


「もともと陛下がもっもとかわいがっているのはルーシェ妃殿下だ。なにか、王太子殿下に落ち度でもあれば、第二後継者のマール公、第三後継者のエピセン王子をすっとばして、ルーシェ殿下にいく、とはもっぱらのウワサ。」

「噂でしょ、たんなる!

それに、王位継承権は16位まで、指名されてるけどルーシェさまは、そこに入ってない!」

「だから、ルーシェ殿下は特別なのさ。」

麗人はせせら笑った。

「継承権の順位をめぐっての、足の引っ張り合いなど、好きにやらせておけばいい。真なる跡継ぎは、ルーシェさまだ、とね。」


それは。

なんというか。


かかわりたくない話だなあ。


「関わりたくないという顔をしているな。」

レティシアは、わたしの表情を見透かすように言った。

そんなにわたしの顔は、読みやすいのだろうか。


すっと指が伸びて、わたしの前髪に触れた。


「元に戻ってホントによかった。」

鋼鉄の目の光が、優しいものに変わった。

「おまえは、わたしが守る。」


わたしの表情はずいぶん硬かったのかもしれない。


「『何』から守るんだ?ってことだよなあ、問題は。」

やさぐれ元勇者が、口を挟んだ。

「はっきり言ってやれ。ルークから、おまえを守るんだとな。」


今度のレティシアの視線は、鉄をも両断する青白い焔だった。


「ルークが悪だと断じてるわけじゃないぜ。」


ヘラヘラと笑いながら、元勇者殿は、親しげにポンとレティシアの肩を叩いた。


「だが、今まさにおまえが言った通り、ルークの立場ってもんがある。」

「わたしは、そんなことを言っていない!」

「言ったさ。

ルークは、ルーシェのために、他の派閥連中に文句をつけられないように、常に功績をあげ続けなきゃ、いかんのさ。

はっきり言って後継者後位の後ろの奴らはどうでもいい。

だが、王太子とマール公、エピセンくらいは、チェックしとかにゃあ、だな。」


わたしがきいていても、結構正確な分析だったと思う。


「どうだい、ここいらで、ルークから直接、俺たちに何をさせたいか、聞いとかないか。」

「だから、今晩はわたしの屋敷に来いと」

「俺は枕の調子が悪いと、眠れないんだ。だから、今夜このまま、ルークのところに押しかけようじゃないか。

まさか、王宮に連れてくわけはないし、押しかけても迷惑にはならんだろ?」


いや、絶対に迷惑になるな!


「絶対に迷惑になる!」

レティシアが言った。

「それにおまえには、ルーク殿下殺害の容疑がかかってることを忘れるな!」

「殺害未遂、な。」


言い返したが、それは反論になってないぞ。


「どのみち、俺もルークから逃げ回ってるわけにはいかないんだ。ここいらで、整理をつけとかないとな、一度。」


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