堕ちた勇者に捧げる歌は～ざまあされたあとの物語り

元勇者は語る

おう、肉屋のせがれか。

え？

いい加減に名前を覚えてくれだ？

十年早いわっ・・・・

まあ、いいや、座っていっぱいやって行け。

なに？　ずいぶんと景気がよさそうですね、だと？　分かっててきたんだろう？

え。ああ、今帰ったやつか。

「武器屋」だよ。

以前は結構、世話になったかな。売ったり買ったりな。

付与魔法のたっぷりかかった超高級品や、迷宮から発掘されたレアアイテム。そんなものばかり扱う武器屋だ。

俺には一生、縁がなさそうです、だと？

そうだな・・・そりゃあ、縁がなければないでいいんじゃないのか？

そんな特殊な武具を使わなきゃいけない相手には、一生遭遇しないのが、賢い生きたかってもんだ。

そうだよ。一時は、顔を見るだけでつばをかけられたもんだが、また風向きがかわったみたいだ。

そうだな。愉快じゃねえな。

金がはいったとたんに、急ににこにこと寄ってきやがるやつらには、もう金輪際かかわりあいたくねえ。

いや、おまえのことじゃねえよ。

よし・・・きたな。

じゃあ乾杯と行くか。

あ？

「迷宮研究会」の初仕事の成功を祝って？

まあ・・・いいんだがな。俺たちは「愚者は踊る」ってパーティ名なんだよ、正式には。

「迷宮研究会」か。

すっかりそっちが定着しちまったな・・・

俺は、いいんだがな。「会長」が嫌がるんだよ。学校のサークルみたいだって言ってな。

どのくらい儲かったんですか？だと。

聞きにくいことを聞くなあ。

いや。実を言うと俺もよく知らねえ。報奨金は等分で分けたがな。素材の方だろ？

そりゃあ、いい値段で売れたはずだぜ。

持ち帰れなかったう分は、歩合をとって、冒険者たちの切り取り放題になってるはずだ。

おまえは・・・

え、迷宮の十二層までたどり着けない？

勘弁してくれ。あそこはマッピングも終わってる「枯れた」迷宮だぞ。すくなくとも十二層までは安全にたどりつけるルートはわかってるはずだ。

そうだな。実際に売り捌いたり、歩合の徴収なんかを交渉したのは、リティシアだ。おまえも知ってるだろ。男装の麗人、変人伯爵閣下だ。

入った金を分配したのは会長だ。

言っとくが、俺の手元には大した額は入っちゃいねえよ。

そうだな。安い酒場で飲んだくれる程度の金だ。

え？

ああ、そうだよ。高級なところは全部出禁になっちまってるからだ。

そっちだけでもいい加減に解除にならないもんかな。

まあ、あれだ。今回の報酬は何はさておき、会長の治療費に当てないとな。蜘蛛の毒をまともに浴びて、治療も遅れたせいで髪もごっそり抜けちまってる。

あとは目だな。本人は魔眼を入れると騒いでいるんだが、再生できるなら、再生してやりたい。

その上で特殊能力を付与したいならそうすればいいさ。

と、言うわけで、「迷宮研究会」は、しばらくは開店休業の状態だ。

その分も見越して、支給はほんのちょっぴりってわけだ。

ああ、お前の親父さんには礼を言っといてくれ。

正直、俺の師匠みたいなもんだ。

ああ、それも聞きたいのか？

いかに傷つけないで、高価な素材を切り出すか？

いや、あれはな。

「それ」が目的じゃないんだよ。

あの強欲な伯爵さまが「白金貨白金貨」とうるさいもんで結果としてそうなったが。

あれは、「切り出す」んじゃなくてバラすのが目的だからな。

一刀両断できないようなでかい相手だろうが、硬い装甲を持った相手だろうが。

人間の筋力と並の鋼の剣で、どこまで魔物に対抗できるかの実験さ。

・・・そう、うまくはいったな。

あれをもっともっと早くやればいいんだ。

なんとかコツは掴んだぜ。

もっとも剣は両方とも歪んちまった。鞘にもおさまらねえくらいにな。修理に出しているが、直せるか。

下手すれば作り直した。長剣は、次期パレス公爵閣下からもらったものだし、もう一本も特注だしな。

なんとか、直したいんだが。

そうだな、例えは悪いが、俺の剣と会長とダメージはどっこいどっこいだ。

金も下手すりゃおなじくらいかかりそうだしな。

・・・ああ、しまった。また呼んじまった。

サリアを「会長」って呼ぶと嫌がるんだよ。名前か、もしくは「リーダー」って呼べってな。

すっかり癖になっちまった。

言っちゃ悪いが、世間が俺たちを「迷宮研究会」なんて呼ぶからだぜ。全く。

「白骨宮殿」の蜘蛛の死体のことをもっときかせろ？

とんでもないレアアイテムはあったんですかだって？

まあ、鮮度とサイズから、まあはっきりいって持ち帰ったものはお宝だらけだ。

いま、冒険者どもがせっせと切り出して運んでる外皮なんかに比べれば雲泥の差だ。

その中でもとっておき、は、まあ、アレかな。

なんだか都市伝説みたいになってるらしいな。

いろいろ物騒な噂が飛び交ってるようだ。

俺が苦労して無傷で取り出して、レティシアの魔法で冷凍保存して持ち帰ったやつの脳髄な。

ありゃ、人間の脳だったらしい。だいぶ弄っちゃあるがな。

学問的な価値はゼロだとさ。もっともルーク次期公爵閣下が、いい値段で買い入れてくれたから、苦労して持ち帰ったかいはあったってもんだが。

そろそろ、行くか？

最後に気味の悪い話をしちまったな。だが、お前が聞いたんだぜ。

まあ、しばらく骨休みをしたら、また単独で魔獣狩りに行くかもしれねえな。親父さんによろしく！