ルーク殿下と冷血姫
名匠の手による至高の作品。
名匠の名を神とするならば、その作品名はルーシェである。
そう噂される第三王女は、いま、顔をしかめながら愛しい婚約者の訪れを待っている。
宮殿の奥。奥の奥。
彼女の住まう一角は紫微宮と呼ばれていた。
中の装飾には、高貴な色として王族以外はめったに使えぬ重厚な紫がふんだんに使われ、調度品も下手をすれば、王そのひとよりも高級なものが使われていると、もっぱらの噂である。
ルーシェは、第三王女ではあったが、この一角を勝手気ままに使っていた。
独自の騎士団をもち、王の子供たちのなかでもとりわけ愛されている。
これは、噂だけではない。王自身が公言している内容だった。
もし。
王太子がなにかの不始末で失脚するようなことがあれば、王位は第二後継者である第二王子ではなく、ルーシェのところに転がり込む。
もはや、世間や、あるいは隣国。国際社会の関心はそこにある。
はたして、ルーシェ女王が誕生することはあるのだろうか。
類まれなる美貌と知恵とを兼ね備えた、しかし、年頃の少女らしい感情を排した至高のビクスドールはいかなる反応を示すのだろう。
そして、その治世はいかなるものとなるだろうか。
「ルークっ!」
年寄りだいぶ、幼く見える婚約者がようやく姿を表すと、ルーシェは小走りにかけよった。
ついでに、躓いたふりをして、その手のなかにダイブした。
・・・・
かわされた。
床にもうちょっとで、キスしそうになったときに、ルークが彼女の身体をささえて、くるりと自分のほうを向かせた。
「なんで避けるっ!」
「だって、体当たりしてくるから。」
「愛情表現だよっ!」
互いに支え合うように、ふたりはぐるぐるとダンスのように回った。
まあ、微笑ましい。
相手が愛おしくてたまらない。滑らかな頬を紅潮させて、ルークの胸に顔を埋める。
「その後の調べは?」
睦言のようにして、しかし、愛の囁きとはとんでもなく遠い会話。
「ヨルガを妖魔化した魔族は、ほぼ特定できていました。」
「最大級の報復を。」
「わかっている。」
耳を噛むようにして唇をよせたルークがささやいた。
「いま、餌をまいているところだ。」
「まあ・・・怖い。いったい誰が餌になるのかしら。」
「元勇者オルフェ。」
ルーシェはほんのすこし身体を離して、ルークの顔を覗き込んだ。
相変わらず、女にしたいような可愛らしさだったが、表情はよめない。
「本気なの? あれはあなたの幼なじみで・・・」
「ぼくを殺そうとした張本人だ。」
冷ややかにルークは言った。
「許していないってことね。まあ、無理もないけど。」
「それとは微妙に違うんだ。」
ルークは、ルーシェを座らせると持ってきたボトルの栓をあけた。
泡立つ白銀色の液体が、グラスに注がれた。
「彼なら、きっとこれを乗り越えてくれると思ってるんだ。もちろん、なんにも保証はないのだけれどね。」
「では、魔族撲滅にむけて祝杯ね。」
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