その日のこと〜勇者オルフェの独白

「すまなかったな。」

そう言ってオレは二人の女の前で深深と頭を下げた。

勇者・・・いや元勇者でもちゃんと頭を下げることはあるんだ。


「いろいろと言いたいこともあるだろうが、オレたちのパーティーはもう終わりだ。」

「いや、でも・・・」

「それっていったい・・・」

泣いてくれるな、メルクリウス。

おまえの涙は、いや涙はだけじゃない、笑みも怒りもなんだか嘘くさくってみてられないんだ。


ジーク、おまえは、いきなり剣の柄に手をかけるな、お前はとにかく直情すぎだ。


「オレたちはギルドから謹慎中なのを逃げ出したんだ。」

「でも」

シークは唇をとがらせた。

「でも、それは西門から侵入しようとした魔族を防ぐためであって」

「報告書上は、な。だから、本来ならギルドは即刻クビ、罰金か強制労働か、なんらかの刑罰を受けるところをこうやってうやむやに自由の日々をおくっている。


だがな・・・


いずれなんらかの罰は来る。


そんときにそれを被るのは、リーダーのオレだけでいい。


オレは」


オレは手を2人にみせた。

右手の中指から小指は、わずかに震えるだけでしっかりと伸びない。反対に左手は力が入らず、握りこぶしを作るのもやっとだった。


「この手では、聖剣を握るのは無理だ。治療には時間がかかる。金もな。

運良く罰金刑ですんだとしても、返済には恐ろしく長くかかる。

その間は貧乏暮らしだ。堕ちた勇者と蔑まされながらな。」


「・・・で、でもその謹慎とか、降格くらいにだったらまだなんとか。」


「いい具合に頭でも打ったか? オレたちはもともと、第三王女の婿さんをハメて、迷宮内で謀殺しようとした疑いをかけられて謹慎してたんだぞ?」


「ドリテアは? あの子の治癒魔法なら」


「聖女さまは、もう王都にはいないよ。オレたちと関わりがあったことすらなしにしたいんだろ。

いまごろは隣国にご留学さ。」


オレは2人の前に袋をおいた。


メルクリウスは、冴え冴えとした知的な美貌に、細身の体。

ジークは、中世的な引き締まったスタイルが魅力。

性格も好みもまったく違う2人だが、これは2人とも大好きなはずだ。


「これって」

メリクルウスは、信じられないといった顔でめを見開いている。

ジークは、もっと行動が早い。


袋の中身を机にぶちまけると、金額を数えだした。


「500クラウドずつ、だ。パーティーの財産を一切合切処分した。」

「確かに、500クラウド。手切れ金、のつもりか?」

「そうだな。一生、とは言わんがしばらくは食っていける。メリクルウスはいつか言っていたように、ラウドナの上級魔法学校に行くのもいいだろう。

入学金や、在学中の生活はなんとか賄えるだろう。

ジークは、故郷に帰れば小さな荘園を買える。それを餌にどこかでもっとマシな男を婿にもらえ。」


「で、」

メリクルウスがのろのろと言った。

あんなに、豊かだった表情は消えて、仮面でも被っているかのようだった。


「あんたはどうするの? 聖剣まで売ってしまったあんたは?」

「身の丈にあった仕事をしながら、体の治療をするさ。」


「分かった」

ジークは、金を袋に戻すと立ち上がった。

「親元に帰るか、冒険者を続けるか。いずれにしてもあんたとの関係にメリットはなにも無さそうだ。

『あんたの』悪評はあんた一人が背負えばいい。」

「確かに、ね。魔法学校の件は悪くない提案だと思う。冒険者を続けるにしても、事もあろうに王室に睨まれた男と一緒にパーティーを組むんじゃ、リスクが大きすぎる。」

メリクルウスは、氷の彫像を思わせる無表情のまま、それだけ言って、金の入った袋を「収納」すると出ていった。


別れたくない。


なせ、私を捨てるの!


あなたのそばにいさせてください。


そんなことを言われたら困ったのだが、なかったな。


一切合切。


なにも。

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