―五― 〈医師法と同い年の爺医〉

 旧字体で「姙産婦乳幼兒手帳」と縦書きされた二つ折りの黄ばんだ紙切れ(縦18センチ×横25センチ)には「昭和23年1月30日午後10時2分に3.4キロの長男を出産」と記載されてある。

「おぼっちゃんですよ」と、昔の東青病院(青森市民病院)の部長先生から分娩室で声をかけられたことが、亡き母から繰り返し聞かされた自慢話だった。


 手帳の〈必要記事欄〉には、妊婦用の米増配や晒・衛生材料交付などに加えて、産婦用の味噌・石鹸のほか乳幼児用の衣料・毛糸中入綿などの文字があり、戦後の物資不足の状況がしのばれる。



七十五年経て姙産婦乳兒手帳は黄ばみけり。赤飯そなへて仏壇に手合はす


  〈医師法と同い年の爺医〉

 医師法は昭和23年7月30日に交付というから、私が生後6か月のころだ。

 その第一条「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする」を守り続けて半世紀。

 ちょっと充電が必要と思い一首。


とりあへず医者人生の中締めと職場をあとにす岩木山笑む


 親孝行の真似事にと老人医療の世界へ転身して10年余り。

 東日本大震災後の医療支援では、岩手県や宮城県での老人医療介護の現場を経験した。

 青森県に戻っても、医療と介護との確執やジレンマには悩んだ。

 そんな老人医療介護の業界に対して、三好春樹氏は著書『介護のススメ!』で「医療は人体、介護は人生だ」と達観する。

「目からうろこ」の良書であり、是非ご一読をおススメしたい。

 かつて「認知症」という言葉が使われる前、さるヤンゴトナキ方がボケ始めたときのこと。

「老化に伴う人間的変化のため公務を欠席された」と新聞に載ったそうだ。

「老化に伴う人間的変化」とは、なんとあっぱれな記者さん!


 さて充電が済んだら……。

 医師免許証は〈伝家の宝刀〉にしておき、老人介護者の視点で微力を尽くしたいと思う。

 これまでの爺医の経験からすれば、認知症を持つ高齢者といえど「あんづますぐ」暮らせるはずなのだから……。

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