#34 主人公



「涼花、俺も用意手伝うよ」


「いえ。兄さんでは足でまといなので大丈夫です」



買い出しから帰宅した直後、俺は夕飯の支度をしようとする涼花にそう提案するも断られてしまった。


確かに俺は料理出来ないけども、キッパリ断られるとちょっと傷つく。俺だって野菜切ったりぐらいは出来るんだよ?多分。包丁の持ち方知らんけども。



「兄さんはそれよりも、あのやかましい人の相手してください」


「なにそれ重労働じゃん」


「サツキこらぁ!僕の相手しろオラァ!」



喚きながら飛びついてくるやかましい人は勿論ご存知、我が親友カズである。



「あっ……この、カズ、てめぇ!引っ付くな鬱陶しい!」


「ふーん?サツキぃ、口ではそんなこと言いつつも本当は僕とくっつけて嬉しいんだろ?ほらほら正直になれよ!」


「すんっ(真顔)」


「え?何その反応?ガチでなんとも思ってない奴じゃん……」




◇◇◇




矢田と久保妹が仲良く料理し、白井と鈴木は談笑、皐月きゅんと朝日屋がギャーギャー騒ぎながらじゃれついてる中で、私と上岡は部屋の隅でひっそりと会話をしていた。



「すまなかったな上岡。付き合わせてしまって」


「いえ……」


「なんとか皆の許しを得ることが出来て、キミへのヘイトは大体下がった。悪いことにはならなかっただろ?」


「あっ……はい……そう、ですね……」



現状、私の名演によって場の空気は概ね良好だ。


勘違いさせつつ、皆の催眠アプリを使った罪悪感に訴え妥協させ黙らせる事に成功した。そうはなってない者も居はするが。


シタ事をなぁなぁで許させ誤魔化したとも言う。


しかし、何か些細な切っ掛けで壊れてしまう薄氷の上に居るのは間違いない。1歩、踏み間違えば絶妙なバランスで保たれていた氷は砕け、冷たい水底へと沈んでしまう事だろう。


そうなったらなったでまた別の手を考えねばならんが、今はまだおそらく大丈夫だ。


私はなんとしても皐月きゅんを中心とするハーレムを完成させねばならない。


それが皐月きゅんの精奴隷たる私の務めだ(義務感)


目下、なんとかして今から8Pに持ち込めないかなとか考えているが、流石に無理が過ぎるか……。いやでもこの場の全員に催眠アプリを使えばヤレん事でも無いのではないか……?いややっぱり数が多くて厳しい。欲望と現実の板挟みである。


すまない……力及ばず8Pに持ち込めない私を許してくれ皐月きゅん……だがいつか必ずなんとかして乱交パーティーを開催してみせるぞ私は。今は信じて待っていてくれ……。



「あの……鳥乃先輩……」


「ふむ……私の事は麻沙美でいいぞ。私も上岡の事は緑と呼ばせて貰いたい」


「あっ……はい……大丈夫、です」


「そうか。ならば緑、同じ男を好きになった者同士だ。今後は気軽に接してくれて構わない。ちなみに私は麻沙美ちゃんと呼ばれると喜ぶぞ」


「えっと……麻沙美……先輩……」


「ふっ、好感度がまだ足りなかったようだな」


「ご、ごめん、な……さい……」


「いやいいんだ。緑は人付き合いが苦手だろ?徐々にでいい。ただ私は緑と仲良くなりたい思っていると、それだけは忘れないでくれ」


「…………」


「それで緑。私に何か聞きたいことがあるのだろ?」


「あの……催眠、アプリ……」


「催眠アプリか。実際の所、緑は持っているだろ?そして私の推察は概ね正解ではなかったか?」


「はい……そうです……」


「気持ちは大いに分かるが迂闊だったな。今度からは上手くヤル事だ」


「あ、あの……私がする事……止めない、ですか?」


「止めないな。催眠アプリは私も持っているし、皐月きゅんを除くこの場の全員がおそらく所持している。そして、皆、それぞれ皐月きゅんに使用していると私は確信している。みんな同じ穴のムジナだな」


「……ッ!そ、そうですか……みなさん……皐月先輩ともう……」


「ああ、そうだ。私はさっき言った通り、既に皐月きゅんと関係を持っているし、他の皆も関係を持っていると思っていいだろう。そして、緑、キミも既に皐月きゅんとはシているのではないか?」


「……はい……すいません……」


「謝ることは無い。言ったろ?みんな同じ穴のムジナと。反応を見るにこの中で普通に皐月きゅんとした者は居ない。だからこそ誰も他の誰かを咎める事なんて出来ない。止める権利を持ち合わせていない。皐月きゅん以外はな。まぁ当の本人は何も知らないわけではあるが」


「…………」


「緑、私の目標は皐月きゅんを中心とするハーレムを作る事だ」


「は、ハー、レム……?」


「その為に私はこれから皆にガンガン催眠アプリを使うように働きかけるつもりだ。だから緑、キミも遠慮せず催眠アプリを使うといい」


「えっ……ど、どうして……」


「この場の全員を徹底的に皐月きゅん専用のメスへと堕とす。皐月きゅん無しではイきられない身体に仕立てあげる。そんな取り返しのつかない状況まで堕とし、皐月きゅんに


「そ、そんな……!」


「彼の意志を無視している。酷い話だ。だがそれはもうなんだよ。既に私達は彼の意志を無視して行為に及んでしまっているんだ。だから私は全員巻き込んで奈落の底まで引きずり込む」


「…………」


「確かに普通の関係とは逸脱しているとは思う。だが、安心して欲しい」


「安心……?」


「ああ、私が必ず皆まとめて幸せにしてみせる。奈落の底だが、そこに幸せが無い訳では無いだろ?」


「……そう……かも……知れません……」


「そこで緑。キミにも私に協力して欲しいんだ」


「わ、私が……ですか?」


「そうだ。緑、キミは皐月きゅんが自分に好意を向けてない事を理解しているのではないか?」


「…………ッ!そ、それは……その……」


「それでも……離れたくないし、好きなんだろ?」


「……はい……わ、私は……皐月先輩の事……」



この反応。そして行動を見れば緑の答えは明白だ。



「私と協力して全員を堕とす手助けをしてくれないか?」


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