第17話 ありがとう
「たけし、ありがとな」
「おうよ」
出発直前、タケシに預けていたのはタツヤが苦労してまた回復させた、あの花だ。汚したタケシ自身が旅の間預かってくれていた。少しまだ傷は残っているが。
そうしておみやげと一片の花を抱え、ミコトの病院まで急ぐ。実に1週間ぶりだ。タツヤは今まで実力を隠していたんじゃないかと思うほどの速度で走る。信号で止まると忙しなく足をバタバタさせて。
「美琴ー!」
タツヤが病室の扉をバタンと開け、どこか窓の向こうを見ていたミコトは振り返る。
「あ、お帰りなさい!どうだった?」
「ロンの記憶はまあ、合ってはいたけど。あ、これおみやげ」
「ありがとうございます。あれ?それってローズマリーですか?」
タツヤはその花を確かに隠していた。でも僅かに覗くその隙間からその種類を当ててみせたのだ。すごい。
タツヤは呆れるように、
「そうだよ。ロンと美琴へのプレゼントだったんだ」
「なるほど、だからローズマリーなんですね」
『どういうことだ?』
タツヤは黙ってスマホを眼前まで持ってくる。そこには。
ローズマリー。花言葉は
思い出、追憶。
つまりこれは、記憶を巡る旅と、これから共に思い出を刻むことを、タツヤなりに考えて送ってくれたのだ。だからあの時あんなに怒って。
『ありがとう、タツヤ』
「なんかロンはぼくにとっての父親みたいな存在になっちゃったからね」
「うふふ、ずっと離れられない親子ですか」
「早く子離れしてほしいものだよ」
『ありがとう、ありがとう』
また月日が流れた。2人とも6年生となった。
次は3人で、俺が転生した原因を探る旅を計画した。もちろんすぐには出られない。その間ミコトには俺の訓練をさせて徐々に回復してもらっている。
そしてあのローズマリーは純粋な美しさの花々に支えられ、少し汚れた主役となっていた。
それは、俺たち3人の関係をいつまでも刻み続ける、記憶の花として。
中世の騎士から現代の子供に転生したけど、体までは乗っ取れませんでした 千口立華 @Rosmos238
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