第9話 行ってきます
退院の日がやってきた。
タツヤはミコトの前で目を潤わせ、ミコトはそれを宥めている。
あの後一通りのことは調べたが、ほとんど成果がなかった。出てくるのは多重人格の人がどのようなタイミングで人格が変わるか、ということばかりだ。
唯一分かったことといえば、俺の国について。おそらく、今ではドイツという国らしい。
いつか行って確かめるしかないだろう。
ミコトとの別れを済ませると、母親に連れられ、家に帰った。俺からするとお邪魔しますだが。
初めて乗った車は信じられないくらい快適で、揺れをほとんど感じなかった。
窓から見た日本の家はどれも似たような形をしていて面白くない。
タツヤはビルに住んでいるのかと思ったがそんなことはなく、面白くない普通の家だ。機能的な面を重視しているような、フラットな印象だ。
家の中は意外にも広く、天井は低いが圧迫感をあまり感じない開放的な作りだ。そしてよく分からない機械や置物が乱雑に置かれている。うーん、これは減点。
どうやら明日から学校に通うらしく、タツヤも母親も忙しなく動いている。酔いそう。吐けないけど。
特にやることもなく、俺はひたすら考え事に耽ることにした。
そのまま登校の朝になった。
「たっちゃん忘れ物ないよねー?いってらっしゃい」
「いってきます」
どうやら親なしで子供のみの集団登校というのが普通らしく、一緒に歩く子供たちはタツヤを誰だと噂していた。
『お前、いつから入院していたんだ』
「3年生。年齢で言うと9歳。ぼくを知らなくても仕方ない」
学校は思ったよりも大きく、小国の城というのがいい例えだった。相変わらず角ついたデザインではあるが。
外見よりも豪華なのは内装だった。床の素材も定期的に変わって面白い。教室の前の廊下は木だった。壁には子供たちが書いたであろう絵や作文が飾られている。
「お、来たねえ」
タツヤが気だるそうに扉を開けると、声を掛けてきたのは教師のタナカという男だ。
「どうも、久しぶりです」
「君はあの子の隣の席だ。荷物置いたらみんなに紹介するから前まできてねえ」
注目されながら、前に立った。
「えーっと、名前は達也って言います。仲良くできたらと思ってます。よろしくお願いします」
『お前、本当によろしくする気ある?』
「ない」
『知ってた』
長い教師の話と朝の挨拶とやらが終わると少しの休憩が挟まれた。
「ねーねー、達也くんって趣味とかあるの?」「えー、気になる」
この時タツヤがトイレに行きたいのは知っていた。それだけにかわいそうだった。
あんまりまじまじと見たことないが、こいつそんなに顔整っていたか?女子にキャーキャーと囲まれるほどに?信じられん。やはり単純な興味か?
そう思っていると、タツヤの目線が一瞬だけ外野の男子の集まりに向いた。
やっぱりこいつ、気づいていたのか。
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