第4話 かわいそう
あれから毎日、タツヤは雨の日以外は中庭に出るようになった。100m歩いて死にそうになっていたのも、今では300mにまでなった。
最近気づいたのは、この国は季節の陽気、というか匂い?がとてもよく感じられる。以前タツヤがこの国は四季がはっきりしていると言ったが、あの頃だと自然物しか取り柄がない、と蔑まれただろう。が、こうして銀色の筒、ビルだったか。ばかり見ていると、自然が恋しくなるものだ。
そういった気づきがあった一方、不満も増えた。こいつが俺の意識とは別に視界をグラグラ動かすせいで酔いそうになるし、好きな景色を見てられないし、全ての行動の決定権がこいつにあると思うとちょっとムカつく。
だから、タツヤが好きな音楽を聴くときに少し嫌がらせをしてやることがある。
黒くて丸い楽器みたいな物体、ヘッドフオンというらしい。を耳に当てると音楽が流れ始める。
だがこの段階ではだめだ。もっと盛り上がって、タツヤが指でリズムを刻み始めたとき、いまだ!
『ああああああああああ!がああああああ!』
「うるせえええええええええ!」
ふふふ、抵抗できまい。貴様は一生これに怯えながら音楽を聴くのだ。
そう誇った瞬間、扉がバンっと開く。
「病院の中では静かにしてください!」
『あ、はい』「...はい」
あまりに急だから相手に聞こえないのに反射的に返事してしまったではないか。
「お前のせいだぞ。これからはやめろよな、子供じゃないんだから」
..子供に諭された。まあ、確かに俺が悪いか。
いつもの散歩の時間になった。一階の入り口までは息を荒げずに行けるようになった。よし、この調子なら。
『なあタツヤさんよ。筋トレ、してみないかい?』
「え、やだよ」
『即答かよ!でもほら、5回ずつの3セットからでいいから始めようぜ。強くなれるぞ』
「まあそのくらいなら..」
というわけで始めてみる。
『はい、いーち!にぃーい!さー』
「もう無理3回が限界死ぬもう帰る」
ひどい有様だ。
散歩から帰るとタツヤはいつも本を開く。本人曰く暇だかららしいが、まあ本ってそういうものだよなと思いつつもモヤモヤした。だって用語わかんないんだもん。
だから今日は頼んでみた。
『用語解説踏まえて一冊読んでくれないか』
「え?めんどくさ。まあでも、うーん。やってみるか。かわいそうだし」
この日ほど慈悲の心に感謝した日はない。完結まで読むのに時間こそかかったが言葉と意味は全て覚えた。
丁寧に指を差しながら解説してくれるタツヤを見ていると、俺も教えを乞われたら極力応えようと思えた。
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