最期のメロディーに乗せて

@rin_0414

第1話

「....ということで、君に橘氏の行方を探してもらいたい。」

羽田専務は仏頂面で、明日の搬入スケジュールについて指示しているかのような淡々とした口振りで、このミッションを宣告した。


「あの、これ、やばくないですか。普通、警察に頼んだ方が」


「相変わらず飲み込みの遅いやつだな。このままでは橘氏は警察に追われる身となる。その前に、彼の行方を捕らえて事態を穏便に済ませる。いいな。」


9月3日-早朝

有名ピアニスト、橘 景が失踪した。

自身が代表を務める正木音楽支援会の本部、事務所の玄関に1枚の書き置きを残して。


-どうか探さないで欲しい。20日のコンサートには僕からのビデオメッセージを送る。はるちゃん、必ず19時ジャストに必ず流せ。


松原 遥人 俺はこの事務所の雑用係だ。

1ヶ月前、とあるライブハウスの清掃の仕事をクビにされ、偶然その場に居合わせていた橘さんに拾われた。それから橘さんの演奏会やテレビ出演などの現場に同行し、あらゆる雑務をこなしてきた。

移動車の運転、ケータリングの発注、機材の搬入、楽屋内での橘さんの話し相手(兼ボディーガード)、事務所の掃除、贈り物の確認分別、、体力だけはあったから、なんでもやった。


橘さんは「はるちゃん、信用してるよ。」と言って仕事の段取りや外部とのやりとりに特に意見せず、俺の判断に任せてくれた。高校の頃から続けているバンド活動の傍ら、フリーターで職を転々とした僕にとっては業界の勉強にもなり、やり甲斐のある仕事だと思っていた。


だが、いくら信頼された雑用係だとしても、これは俺の仕事じゃない!!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る