3.恋煩い?

 ☆☆

 ディナー翌日の職場にて。

 いつも通りに出社したものの、なぜだか仕事に身が入らない。

 PCの前に座り、書類の不備チェック。

 スクロールの手がいつもよりも遅い。

「やばい。手につかない」


「先ぱーい。恋煩いっすか」

 察してやってきた観察眼の鋭い後輩に苦笑しなら返答。


「そうみたいだ」


 昨日の彼女のことが頭から離れない。

(いい年だろうに。なにをしているんだか)

 コーヒーを3倍飲んでもなぜだか集中できない。


(もう一度会いたいからアドレス教えてもらおう。進藤に頼むしかないのか……)


 既婚でお茶目な親友の妻。


(好意も見透かされたようで、なんか居心地が悪い)


 進藤杏奈の夫であり、俺の親友の進藤奏シンドウ カナデ

 いまは敏腕な商社マンとしてアメリカのNYにいるらしい。


 時差もあるし、色恋の相談を受けている時間があるかどうかもわからない。

「仕方ないよな」

 昼休みまでの時間がこんなに長く感じたのは久しぶりだった。


 ☆☆

 半休をとって、進藤杏奈の自宅前に来ている。

 返すドレスが汚れていないか最終チェックだ。

「ふぅ」

 汗で乱れた髪を整え、ドアのチャイムを押す。

 ピンポーン、ピンポーン♪


「ドレスありがとう。クリーニングに出したから、返すね」


「えー、ありがとう。で、セクシーなドレスを着ていったから

 その夜には何かあったでしょ?」

 やはり打算があったのだ。

 あんなに派手なドレスを着せたのだから

 一夜でラブロマンスが生まれたという期待だろう。

「期待していることはございません。とっても紳士で話の合う方だったよ」

「へー」

 つまんなそうに言う杏奈。

「あんたたちいい感じなのかもね。

 彼のほうからも言われたよ。また会いたいってさ」

 さっききたライン履歴を見せる杏奈。

 つい声が弾んでしまう。

「本当? なんかうれしい」

「ライン、教えてもいいかしら?」

「うん。是非」

「そっか。よかったよかった」

 にんまりする杏奈。

「なによ」

「お似合いだなって思って」

「そうかもね」

「じゃ、またね」

「うん」

 何とか進藤宅を出てきたものの、頬が熱い。

(杏奈にはぜーんぶばれているんだろうな。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃない)


 その後、女子力を磨くため、新しい化粧品一式を探し求め、ドラッグストアへと足を向けたのだった。



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