途切れた恋の便り⑥




カイン視点



使用人の言葉はカインを動揺させるのに十分過ぎるもの。


「は・・・ッ!? 行方不明って・・・ッ!」


もしかしたらそんな可能性もあるかもしれない、恐れていた悪い予感が当たってしまったことに全身から汗が噴き出した。 両親もまさかそんなこととは知らず、驚いた顔で使用人を見ている。


「5年前を最後にして彼女の目撃証言を辿ることができませんでした。 聞き込みからは彼女の無事を推測するのは難しく、もう亡くなっているとお考えになるのが自然かと・・・」


信じたくもない出来事につい返す言葉も強くなってしまう。


「そんなわけないじゃないかッ!! ちゃんと本当にエマのもとへ連絡したのか!?」

「もちろんでございます。 カイン様が教えてくださった住所にもちゃんとご連絡をいたしました」

「それでどうだって!?」

「・・・既にその住所にエマ様とご縁のあるものはおりませんでした」

「なッ・・・!」

「エマ様がお亡くなりになられて、ご家族は家を移ったのだと考えられます」

「そんな・・・」


それを聞いて全身の力が抜けていく。


―――だから5年前にピタリと連絡が途絶えたのか?

―――エマが亡くなったから?

―――それだと確かに音信不通になった理由も理解できる・・・。


だが疑問も思い浮かんだ。


―――理解はできるが、それならどうしてエマの家から僕に連絡がなかったんだ?

―――僕がこんなにも手紙を送っているんだから普通は何かを言ってくるはずだろう?

―――・・・もしかして僕の手紙が届いていない?

―――エマの住所がなくなって届かなかったのか?

―――いや、それなら時系列がおかしい。

―――エマが亡くなる前に家を移ったことになる。

―――流石にそんなことはないだろう・・・。

―――ということはやはり僕からの手紙は届いているはずだ。

―――でもそしたら何故僕に連絡が・・・?


そこで一つの結論に辿り着いた。


―――もしかしてエマも僕と同様に文通していたことを家族に隠していた・・・?

―――僕からの手紙は自宅に届いていなかったのか?


考えているとよく分からなくなってきた。 そこで父が固く閉じていた口を開く。


「・・・カイン。 残念だがその娘が亡くなっていた以上、婚約はエルザと」

「いいえ。 まだです」


カインがそう言い切ると父は困惑した様子を見せた。


「まだ何かあるのか?」

「エマが亡くなっただなんて信じられません」


父はカインの強情さに呆れているのか大きな溜め息をついている。 とはいえ、カイン自身その目で確認もせず納得することはできなかった。


「使用人からの話だと5年も前から連絡が途絶えている。 自分の子供がいなくなり5年。 短いようで長い時間だ。 その間家族は何をしていたんだ?」

「それは・・・」

「家を移ったのも行方不明のまま見つからず諦めたからだろう? 辛い記憶は些細なことで蘇るものなんだ」

「この目で確かめないと納得がいきません!! ・・・少し家を出ます」

「ふぅ・・・。 気の済むまで確かめてみるといい。 それで駄目なら覚悟を決めろ」

「・・・分かりました。 実際に僕の知っている住所へ行って自分の目で確認し、答えを出します」


そう言うと両親は目を合わせた。


「・・・帰ってきたらエルザと婚姻を結ぶのだな?」

「それ以外に道はないでしょう」


勝手に話を進められ母が止めに入った。


「ちょっと貴方! この後はカインの誕生を祝うパーティがあるのよ!? 主役がいなくなるだなんて・・・」

「それは我々でどうにかすればいい話さ」

「でも・・・」

「カイン。 早く戻ってくるんだぞ」

「・・・はい」


振り返るとそこにはエルザがいた。 不安そうにこちらを見ている。


「どんな答えを出すとしても、必ず戻ってくるから」

「・・・待っています」


エルザは小さく頭を下げ脇に避けてくれた。


「旅に出る出発だ。 じぃ、馬を用意してくれ!!」



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