第3話 社畜、鑑定される。
「名前を名乗られよ」
「...橘(たちばな)、蓮司(れんじ)」
かれの召喚師はその衣服で素顔はこちらがわからはわからないけれど、転移者の方はかなり若そうに見える。
(橘蓮司...若そうに見えるな)
まだ10代...高校生くらいの子か?ブラウンに染められた短髪と、明るめのシャツと青いジーンズ。
...スーツ姿の暗めの俺とは真逆だな。
彼が鑑定師の前に立つと、その体を霧のような白いもやがその体をおおった。
(あれが魔力、オーラか...)
ここに来る途中、シロさんにこの選定の儀の説明を受けた。転移者は鑑定師により秘められし魔法属性を判定される。
大抵は、火、水、風、土、氷、雷の6属性に分類されるが、稀に異質の力を秘めた者もいるという。
ちなみに、なぜ転移者や転生者が求められているのかというと、その理由は大きく3つある。
それは、魔力総量の多さとそれ故の自然治癒力の高さ、そして肉体の強靭さ、だ。
それ故に、俺達は鍛えればかなり強力な兵として使える。だからこそ莫大な魔力を使用し、この世界へと招いたのだ。
橘の体のオーラが朱く輝き始めた。
「おお、これは火属性か...ん?」
そう判定がくだされそうになったとき、朱いオーラの中にバチバチと電撃が走っているのが見えた。
「...こ、これは...2種持ちか!しかも強力な火属性と雷属性!」
周囲がざわめく。「素晴らしい」「これはすごい」「オーラも力強い」称賛の嵐に、鑑定師も満足そうに頷く。
そして王もまた認めるように拍手を送る。
「素晴らしい...あなたには是非、我が国をお守りいただきたい!」
(...な、んだと...!?)
さっきとは打って変わった王の様子に驚く。それほど使える転移者は貴重なのか。
そしてまた次の転移者が前へと出る。
長い黒髪、赤い口紅、冷たい瞳。彼女もまた先程の橘と同じく、かなり若く見える。
ゴスロリと言うのか、黒いドレスで身を包んでいる。
「そなたの名は」
「茨乃(いばらの)、有栖(ありす)」
そして彼女をオーラがおおい、変化が始まる。
彼女のオーラもまた紅い...しかし、橘のよりも深い紅。そして、どろどろと液状に変化していった。
「こ、これは!!6属性ではない特質の能力!!」
ざわざわと先程と同様、大きなどよめき。
「すばらしいい!!貴女も我が国をお守りください!!勿論、報酬はいくらでもお支払い致します!!」
二人の大当たりを引いたせいか、興奮気味の王。
(...能力があれば待遇が良くなる...どこの世界も同じだな)
「次の者、前へ」
「はい」
(...戦う気は無いが、俺の能力は果たして)
「名は?」
「黒崎(くろさき)、冥(めい)です」
ゆっくりと鑑定師のオーラが俺の体をおおう。
...?
しかし一向に変化はおとずれない。
やがて先程の二人のときとは違う、不穏などよめきがその場に巡る。
(...なんだ?)
隣に居るシロさんも困惑していた。
そして鑑定師が気がついたように口を開く。
「...そなた...まさか」
嫌な予感がした。鑑定師のその表情に、俺の心臓が跳ねる。
この目の色の変わりようを俺は知っている。
「貴様、無能力者か...!」
鑑定師が俺を無能力者と判定した瞬間、明らかに場の空気が変わった。
それまではまるで祭りの場のように高揚し、賑わう人々だったが、うってかわって不穏な空気に包まれている。
俺はこれを知っている。
「ふむ、無能力者...なるほど」
王がまた一つため息をこぼす。するとその脇に佇んでいた騎士が口を開いた。
「王...では、ここは目覚めさせますか?」
「うむ、可能性はゼロではないからな。やれ」
「はい」
(...目覚めさせる?)
その言葉に嫌な予感をいだいた。その瞬間、瞬きする一瞬。
王の横にいたはずの騎士が目の前にいた。
(な!?は、はや)
「え、えっと...?」
「...」
無言の騎士。彼が俺の腕を掴んだ。
その時、彼のオーラに触れ理解した。圧倒的な力の差を。
まるで獅子の前に差し出された兔。どうあがいても勝ち目の無い、生物としての格の違い。
俺の全身から汗が流れ出し、隣のシロも小刻みに震えていた。
そして――
その騎士は俺の腕をそのまま折った。
「ぐあっ、あああ!?...があああ!?」
「クロサキ様!?」
「...」
あまりの痛さに床を転げ回る。しかし騎士は俺を踏みつけ動けないようにした。
「どうだ?鑑定師」
「ふうむ...ん?おお」
自分でも驚いた。折れたはずの骨がこの数十秒で元に戻り始めたのだ。
「回復力が凄まじいですな」
「...治癒能力と言うわけか?」
「いえ、オーラに癒やしの性質はあらわれておりません。なのでただ自己治癒力が高いだけ...何も能力は発現しておりませんな」
「...そうか。なら、仕方ないな」
騎士の視線が刺すようにこちらを射抜く。これは、紛れもない...あの時の暴漢と同じだ。
俺に対する明確な殺意。
ガチガチと歯がなり、震えが止まらない。
遠くで王がつまらなさそうに言う。
「まあ仕方あるまい。この世界に存在できる転移者、転生者の定員は決まってるしな...無能力者のクロサキとやらが存在していると一枠勿体無い。...殺れ」
「はっ」
騎士が剣を抜こうとしたその時、シロが口を開いた。
「お、お待ち下さい...」
「なんだ召喚師」
「...彼は生かしておいた方がよろしいかと。次の召喚に際しての魔力補充にはまだまだ時間がかかります...それまでにこの方が何かしらの能力を発現させるかもしれません...」
(...シロさん...助けてくれたのか...)
声が震えている、体も...。
そして王が頷き、口を開いた。
「ふむ。それもそうか」
騎士もまた、先程までの殺気を納め部下に指示をだす。
「ではクロサキとその召喚師は地下牢へ連れて行け」
(...この騎士...ただの騎士じゃない...)
ふと見れば、手がまだ震えていることに気がついた。
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