第42話:結婚式前夜




 辺境伯に引き取られてから、1年とちょっと過ぎた。

 筋肉馬鹿、もとい辺境の男達に囲まれていたら、いつの間にか野生の勘が冴え渡るようになっていたわよ。

 第六感って言うの?

 神様の祝福のお陰で、そういうのが育ち易いのかもしれないけどね。


 急に思い立って、老朽化した橋を作り直そうと撤去した途端に、大雨が降った。そのままだったら、橋が壊れて川の流れを止め、決壊していただろう。

 ちょっと皆で山で訓練を、と行ってみれば、隣の領地を荒らし回った盗賊団と鉢合わせた。勿論、討伐した。

 さびれた村を何とかしたいと思いつつ、新しい井戸を掘っていたら、温泉を掘り当てた。


 しかも神様のお陰で、領地内全てで大豊作。

 グルーバー辺境伯領地と、キャスパー辺境伯領地、そしてバーナビー王子のブラウン辺境伯領地、マーガレット様の公爵家とアイリス様の侯爵家の全部で5つの領地でよ!?



 そしてそして明日は、その5つの領地合同の、3組の結婚式なのよ!!



 結婚式の為に、3つの領地が触れ合っている場所に、神殿建てたからね。


 結婚式の前日に、新婚生活や初夜の心配より、結婚式そのものに不安を感じてる花嫁ってどうなの?

 神様や女神様がやりすぎませんように!

 天使が仲間を連れて来ませんように!

 馭者だった天馬が乱入しませんように!




『早く寝ないと明日に響くぞ』

 ベッドに入っても心配で眠れずにいた私に、神様が声を掛けてきた。

『バージルは熟睡よ~』

 女神様も現れる。


 羨ましい。さすが脳筋馬鹿だわ。

 何かが起こっても、対応する自信があるから不安にならないのだろう。

 基本、小心者なのよ、私。



 そうだ。

 前から神様に聞きたいと思ってたの。

「ねぇ、神様。何で私を愛し子に選んだの?生まれる前から決まってたの?」

 神様と女神様が顔を見合わせたのが見えた。


『カーリーは、親に虐げられようが、姉妹に馬鹿にされようが、使用人に差別されようが、全然卑屈にならなかった』

 は?

『私の何が悪いんだろうとか、親に愛されるにはどうしたら良いんだろうとか、普通の子供が考える事を、全然考えなかった』

 まぁ、そうだった気がする。

 それは多分、家庭教師が常識を教えてくれたからだと思う。


『開き直って我儘になったり、暴力に訴えたりもしない。ただ達観していた』

 姉妹が特殊過ぎたから、自分に非が無いのは解ってたし、無駄な労力を使いたくなかったのよね。

『それがな、何か良かったのだ』

 はぁ!?


『早々に家族に見切りをつけたのも気に入った。確か4歳だったか?それから私の愛し子になったのだよ』


 もっと違う事を想像してたよ!


 あんな姉妹が居るのは、それこそ産まれる前から愛し子に決まっていた為の試練だった――とか。

 もしくは、特殊な家庭環境で堪え忍ぶ姿を健気に感じたとかさ!!



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