第26話兄妹が応習学院に入学した理由
ホラーを見る前にそれぞれが歯磨きも入浴を済ませていたので、今日はもう寝るだけだ。
タオルケットや掛け布団を持ち寄ってソファーで2人で寝ることになった。
「この感じ、ひさしぶりですね」
俺にぴたっとよりそって、桜花が言った。
「中学時代は、なんかツンケンしてたもんな、お前」
「お兄様が腑抜けられていたからですわ。わたくしは、一色家をともに背負おうと一生懸命努力しておりましたのに。それに、少しわたくしを疎んじていましたよね」
「一色家か。平安時代から続く名家だが……背負う価値がある? それから、お前を疎んじていた? 思春期特有の病みたいなものだ。それは、ごめん」
思春期に入ったら、兄妹で距離できるの普通だよね?
むしろ。今の距離感は、バグってるまである。
「うふふ」
そこで、含み笑いをする桜花。
「ん?」
なぜ桜花が笑ったのか、分からない俺。
「なぜお兄様が腑抜けられたのか分からないわたくしに、お父様とおじい様が口を揃えておっしゃられたのです」
「なんて?」
「“それは、一色家の男子が一度はかかる病みたいなものだ”って」
「病?」
「“一色家を背負う価値があるか分からず、腑抜ける病”だそうですわ。重症の場合、一色家を出奔する者もいるそうな」
「ふうん。で、なんでお前が応習学院についてくることになったんだ?」
この話の流れに桜花がどう絡むのかが分からない。
「お兄様が一色家を出奔することになったら困る。というのが、表向きの理由でしょうか?」
「困る? 表向きの理由??」
裏の理由もあんの?
「一色家をお兄様と一緒に背負うのが、わたくしの存在理由なのです。共に背負えないならば、わたくしの存在価値など無いのです!」
(またまた、大げさな。そういう所だぞ。俺がお前を敬遠していたの)、そんなことを考える俺。
俺がどうであろうが桜花の存在理由が揺らぐことの意味がわからん。
「お前が頑張っていることを両親もとても喜んでいたじゃないか。おじい様もな。俺がどうであれ、お前の存在価値が無くなるわけじゃないだろ。むしろ、お前が頑張っていれば俺が一色家を背負う意味も無くなるんじゃないかと思っていたんだがな。“あー、よかった”って」
「いいえ。わたくし達は2人で寄り添いあって協力しあうことに意義があるのです。お父様もおじい様もその様におっしゃって、わたくしが応習学院についていくことを賛成してくださったのです。2人で応習学院を統べる努力をすることを条件にですわ。そして、“二人とも清濁あわせ飲める人間になって帰ってこい”と」
「聞いてないぞ?」
いや、応習学院を統べる努力をする条件とかマジ聞いてない!
「お兄様は、その条件を飲まないだろうとお2人も分かっていたのです。だから、“東京に行きたいなら応習学院に受かってみろ。東京で受ける高校は、応習学院しか認めない”との条件しかつけなかったのです」
「あのクソ爺!……で、前から気になっていたんだけど、“応習学院を統べる”って何?」
おじい様も応習学院大学の出身だ。俺に応習学院を受けさせたいのも、応習学院愛が旺盛だからだろうとしか考えていなかった。
「“応習学院の生徒会長と副会長になること”ですわ」
「誰が?」
「もちろん。お兄様とわたくしが」
「なんの為に?」
「応習学院は政治や経済、ジャーナリズムや芸能活動で活躍する著名な人物を毎年のようにたくさん排出致します」
「それで?」
「OBをとりしきるその代の生徒会長と副会長は、著名人と繋がれるということですかね?」
桜花も自信がなさそう。
「ふーん…静岡での活動しかしてこなかった一色家が中央に進出しようというわけか?」
一連の話をまとめるとそういうことだろう。
「1人ではできなくとも、わたくし達兄妹が力を合わせれば、できると期待されているのですわ。わたくし達は、“2体で1体の妖”ですもの」
出た。桜花の謎理論。いや。これ、ほぼ一色家としての総意なんだろうな〜。
「一色家総がかりで、俺をはめたな?」
「お怒りになりますか?」
「その企みから、絶対に逃げてやる!」
「応習学院にわたくしといる限り、難しいと思いますけどね。生徒会長とも賭けをしていますし」
「あれか〜」
“聖書のような賭け”である。
「で、いろいろ明かしましたが……今後ともわたくしと仲良くしてくださいますか? わたくしとしてはお兄様とはずっと仲良く暮らしたいのですが。それとも、今日一緒に寝ることもお嫌ですか?」
桜花は不安そうに問うた。
「いや、今日1人で寝るのはムリ!
おふとんから怨霊が出てくるの、マジ無理!
「“これは、これ!それは、それ!”でございますか」
「利害の一致ってわけだ。これからのことは、“明日は明日の風が吹く”ってことで」
「『風とともにさりぬ』ですか。かっこよく言ってますが…お兄様お得意の【問題先送り】でございますね」
呆れたようにささやく桜花。
「そうとも言う。ということで、もう寝よう!……おやすみ」
「おやすみなさい」
いろいろなことを仕組まれていたことが発覚したが…問題を先送りにして寄り添いあって寝た。妹がついて来た以上、学院で起こる様々な問題を兄妹で解決していかなくてはならない。その上で、(一族の思惑通りになんか絶対に生きてやるものか!)と決意をあらたにする俺なのだった。
まだ、いろいろと隠されているような気もするが……
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