第19話秋葉原デート4

「なんか疲れたぁ」


 桜花による俺のコーディネートは、“英国紳士風文学少年コーデ”に落ち着いた。――シャーロックホームズみたいな格好というか。

 普段から持ってるメガネも桜花のリクエストでしている。


 女の子ってなんで人を着せ替え人形にするの好きなの? やたらと店を梯子させられた。


「とっても、お似合いですわ、お兄様♥ ばかかわいい〜」


 やー、静岡弁がでてるじゃんね!―― “ばかかわいい”とは、超可愛いってことだ。別に俺のことを馬鹿にしているわけではない。“やー”っていうのも静岡弁で“コラ”っていう意味だし、“じゃんね”という語尾も静岡弁よりだが。


 それと。このトータルコーディネート、渋沢栄一先生(新一万円札)が2人近くお亡くなりになったんですけど💦←桜花は、「このコーディネートで、しょっちゅう一緒にお出かけしましょう!」と嬉しそう。



「さて、秋葉原を周るか。しかし、以外と普通の街だな」


 オタクの聖地感があまりないというか……


「再開発して、昔とは街並みが変わったそうです」


「ふーん」

 

 そんなことを話していると……




「いい加減にして下さい!」

 

 見覚えのある女子3人組が、あからさまにヤバい雰囲気のDQN3人組に絡まれていた。   


 っていうか。女子の方は、さっきのお姉さん達だ。



「いいバイト紹介してやるって言ってるだけじゃん」   


「私達は、これからアルバイトに行くところです。あなた方のような人が紹介するところと違ってまっとうな仕事先ですよ」



「俺達が紹介するバイトがまっとうじゃ無いって言うのか? お前らのバイト先より時給も絶対いいぜ? 基本給に加えて成果報酬もあるし。かわいい格好もできるし」


「そうそう。お客にドリンクを奢って貰えるし。お客とゲームとかするだけでお小遣いもいっぱい貰える楽でいい仕事だよ」

 

「裏オプあるけどな」


「いいから来いよ!」


「きゃあ」


 DQN3人組が強引にお姉さん達を引っ張っていこうとしている。


 俺は、桜花と顔を見合わせた。


 桜花が頷く。


 俺達は、アイコンタクトだけで、現場に駆け寄った。


 “義を見てせざるは勇無きなり”は、俺達の共通認識なのだ。家訓と言ってもいい。



「なんだ、お前達は?」


「兄貴、男の方はどうでもいいですけど、女の方は、よく見るとかなりの上玉みたいですぜ?」


 桜花は、よく見なくても上玉だろがい💢


「男の方はボコボコにして、女の方は連れて行くかぁ。三つ編みに赤縁メガネとか、そそるよなぁ。商品というより、ナイフとかつきつけながら怯える女をじっくりいたぶって、ズタボロの無茶苦茶にしてやりたいっていうか」


 桜花を欲望で濁りきったヤバい目で見るDQNの兄貴分。


「そのサディスティックな性癖、やばいって、兄貴」


「あはは」

 

 これらは、知能の低そうなDQN3人組の言。


 この街、結構治安が悪い?





「さっきのインモラル兄妹!」


「お兄さんの方、文学少年風のコーディネートね。文学少女と文学少年のカップリング、超かわいい」


「助けにきてくれたの?」 


 これらは、お姉さん達の言。


 “インモラル兄妹”呼ばわりで助ける気が半減した。


 が、


「そのお姉さん達、嫌がってますよね? 離してあげて貰えませんか?」


 俺は、紳士的にお願いしてみる。




「ああ?」



「ぬるい格好したオタク野郎が、しゃしゃりでてくんじゃねぇよ」


 DQNの一人が俺に掴みかかって来た。


 俺達が習った太極拳は、こういう状況を想定した技も豊富。


 ここでその技を出しても、正当防衛といったところだろう。

 あと。妹にも危害を加えると、宣言されたし。内心、穏やかではない。


「是非もなし」


 相手の動きに合わせて、小さく鋭く踏みこむ。


 そして、相手の顎めがけて下からつき上げるように掌打を放つ。


「のわっ!?」


 その攻撃は相手が掴んでいた俺を突き飛ばしながら後ろにのけぞったためにクリーンヒットしてなくて、かすっただけのように見えるだろう。



「へ。なんだ、このチンケな攻撃は?? 人を殴るってのは、なぁ。 こうやるんだよ!」 


 のけぞったDQNが体勢を立て直し、ボディブロウを放つべく拳をふりかぶった。


 俺は素早くステップバック。


「逃さねえよ」


 ショートアッパーが追撃のロングアッパーに変わり、踏み込みが大きくなった。


 が……



 その攻撃が俺に届くことはなかった。


「あ、あれ?」


 DQNは、疑問の声を上げながらゆっくりと前のめりに倒れていく。


「ふ、藤崎? てめぇ、何をしやがった?」  


 倒れた男は、藤崎という名だったらしい。


「顎に絶妙な威力と角度で掌打をかすめさせて脳を揺らしただけだけど? 外傷は無いし、さして痛いわけでもなかったんじゃないかな? まぁ、脳震盪を起こしてそうだからしばらく動かさない方がいいと思うけど」


 脳震盪を故意に起こさせた。 てこの原理で。


「てめえ!」


 もう一人のDQNが俺に掴みかかってこようとする。


(仲間の面倒を見るより掴みかかってくるか)


 こういう奴らって、何故か絶対相手に掴みかかってくるよな。


 俺の解説を聞いて、顎を片腕でしっかりガードしてることだけは褒めてやろう。



 だが。そいつは、俺を掴むことはできなかった。


 何故なら



「ぐはぁ」



 桜花が横から援護に入ったから。



「痛ってぇ!」


 声を上げたのは……俺だ!




「蹴りの威力は拳打の威力の3倍です……って、何故お兄様が痛がってるのですか?」



「そこへの攻撃は、見てるだけで痛いんだよ」


 俺は、共感能力が高いんだ。


 具体的に言えば。桜花は思いっきり蹴り上げたんだ、顎に気をとられて防御の意識が薄くなってたゴールデンボールを。なんのためらいもなく思いっきり。

 上を見せたあと下を攻撃するのは基本だが……男なら誰しも(ヒェッ)てなるだろう。


「【暗黒治癒術】ですね。分かります」


「“痛いの痛いの飛んでいけ”的な? 違うし!」

 まぁ。桜花にはついていないし、ゴールデンボール。


(共感できないのも、分からなくは無い)

 


 たわいのない会話をしながらも、俺は次の行動にうつっている。


 スマホを持った手を蹴ったのだ。DQNの兄貴分らしき奴の。


 仲間を呼ぼうと、電話のボタンをおそうとしている最中だった。


 スマホは蹴り上げられて、はるか後ろの方へ飛んで行く。


「桜花。 !!」


「はい、お兄様」


 蹴りをくらって体勢を崩したDQNの兄貴分。


 俺は桜花に声をかけると同時に、横に体を避けた。

 桜花が攻撃しやすいように。


 そこに絶妙なタイミングで走りこんでくる桜花。


 走り込んできた勢いを殺さず体を捻りながら低い体勢でダッキング。鋭く踏み込み、兄貴分のみぞおちのあたりに肘をおもいっきりえぐりあげる。



「ぐはぁ」


 DQNの兄貴分も体をくの字に曲げて悶絶している。


 みぞおちも人体の急所の一つ。ここへ攻撃をくらったら、しばらく息ができなくて地獄の苦しみを味わっているはず。



 しかし、それだけで俺の気が収まったわけてばない。 


「スイッチ」


「はい、お兄様」


 再びフォーメーションを入れ換える俺達。





 ドカッ!


 前衛に回った俺は、すかさずDQNの兄貴分の股間をおもいっきり蹴り上げてやる。


「ぐぇっ」



「……見てるだけで痛いのでは、なかったのですか?」



「妄想でも桜花をいたぶってくれた、お礼だよ。こいつ、根絶やしにしてやりたい」 


 頭の中でどんだけひどいことをしてくれたんだか。


(考えだけで、はらわたが煮えくりかえる!)


  金的に使った利き足を地に着けず、顔面へ前蹴りを追加。【蛇連脚】だ。


 ドサリとなんの抵抗もなく仰向けに倒れるDQNの兄貴分。鼻がぐしゃっと潰れて鼻血を吹き出している。


 ブチ切れた俺は、さらなる追撃をしようと利き足を地面についてから、逆足を踏み出そうとした。


「その人、もう泡をふいて気絶しています。本当に男性器が潰れて、子孫が根絶やしになったかもしれませんね。それ以上痛めつけても、何も感じてませんわ。生きてはいるでしょうが、“死体蹴り”と一緒かと。そんなことより……わたくしにしかるべき報酬を与えるべきです。“信賞必罰”ですわ」


 俺を止めるように後ろから抱きついて俺の背中に頭をこすりつけてくる桜花。


 そんなことよりって……


「報酬?」


 (ワンコみたいな奴)と思いながら、俺の正面に桜花を向き直らせて素直に頭を撫でてやる俺。

 忠犬なのか、狂犬なのか分からないが……


(2人暮らしを始める前は、こんな奴だったか?もっとツンケンしてたような!?)


――なんか可愛いいんですけど……


 怒りが、だんだん収まってくる。


 もしかして。この振る舞い、俺の怒りを鎮めるためか?





「大丈夫ですか?」

 俺は桜花を撫でながら、お姉さん達に話しかけた。



「ありがとう、助けてくれて」


「“お兄様”の方も、キレると結構ヤバいね💦 いいコンビネーションだったけど」


 お兄様呼びは、やめろー!


「むふふ。わたくし達は、二体で一体のバケモノなのです!」

 頭を撫でられながら、得意気に胸をはる桜花。



「兄妹でいちゃついてるところ悪いけど、すぐにここから離れた方がいいかも。 こういう奴らは、一匹みたら十匹は隠れていると思うわ」


 そう言って、俺達を誘導するお姉さん達。  

 

 


「「Gですか?」」


 いちゃついているというか、じゃれ合うのをやめて同時につっこむ俺達。


 DQNもGも大っきらい。虫唾が走る。


 しかし。今度は、何処に連れて行かれるのだろうか?

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