第9話桃矢改造計画

 みんなが集まったのは、4月末の日曜日だった。ゴールデンウィークの初日。 


「見事に晴れたねぇ」

 4月だが、皐月晴れ。勇太が爽やかに言った。


「逆てるてる坊主でも吊るしておけば良かった!」


 近所の公園で嘆くが、もう遅い。

てるてる坊主は、晴れを願うものだが、逆てるてる坊主は、雨乞いである。雨でトレーニングが中止になって欲しかった。



「まぁまぁ、女性陣が美味しいご飯を作って待ってくれてるよ」


「お前ら、本当にうちに泊まるのな」


「桜花さんにお招きされたからね。評判の新婚夫婦の家庭拝見といったところかな?」


「評判の夫婦は、お前らだろ」


 何度でも言うが……俺たちは、兄妹だ!


「あはは」


 爽やかに笑うイケメン野郎。評判の夫婦ということは、否定しない。


「ここでは、何をするんだ?」 


「まずは、筋肉を触らせてもらおうかな?」


 勇太は、両手をわきわきさせる。冗談めかしているが……


「ぐ、お手柔らかに」


 身体中、ベタベタ触らられた。野郎に触られるのは、あまりいい気分ではない。


「ふむふむ。なるほど。なるほど」


「何か分かった?」


「うん。現状、長距離を走るの得意じゃなさそうだね」


「だろ?」


「まぁ、でも。これなら、なんとかなる。なる。鍛えれば、ちゃんと筋肉つきそうな身体つきしてるし。目指せ、全身中間筋」


 ぐっと親指をたててみせる勇くん。


「中間筋?」


「あれ、知らない? 筋肉には、速筋と遅筋があってね。中間筋は、速筋と遅筋の両方の性質を合わせもつんだ」 


「つまり。全身中間筋になったら、瞬発力と持久力を兼ね備えた理想的な身体になる?」


「その通り。まずは、限界まで走ろうか。柔軟のあと、ジョギングとダッシュを交互にね」


 ――あれ?


 東京の名門校に受かった優秀な俺の頭脳に疑問がうかぶ。


(筋肉の割合は遺伝で決まっていて、変えられなかったような……)  


 いや。まぁ、コーチを信じてトレーニングをやってみるか。



 勇太は、普通に鬼だった。そして、勇太が見極める俺の限界は、俺の想定よりだいぶ先にあった。


(し、死ぬ〜) 


 ジョギングもダラダラ走る訳ではない。この訓練は、遅筋と速筋を交互にきちんと使うことに意義があるのだ。筋肉に乳酸がたまる。


 桜花の特訓が無茶だということで紹介されたはずの勇太。桜花の特訓は、どれだけ無茶だったのだろうか?

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